「酒と薬」の話。

大阪大学工学部応用自然科学科応用生物工学科目/コース(長いので以下、応生)の話を。学部時代に在籍していたところ。内容は、日本酒、マッサン(NHKの朝ドラ)から抗がん剤のオプジーボまで。今年、京都大学の本庶佑先生がPD-1の研究でノーベル生理学・医学賞を受賞されたのが記憶に新しい。実は、オプジーボと応生には関係があったりする。

 

 

↓English version.

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初めに。

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先月、応生の同窓会にお招きいただいた。学部を卒業するときに学位記に加えて、賞を色々といただいたので。僕の所属している研究室は、応生から学生が入ってきて、応生がやっているような研究をしているのだが、情報科学研究科(長いので以下、IST)に属している。

 

ISTと応生の建物は、ちょっと離れていて(徒歩10分?)、研究室に所属してからというもの、応生の先生方や学生の人たちと交わる機会が激減した。そんなこんなで今回の同窓会で「応生」と触れ合うと、久しぶりに見かける先生方や学生がたくさんいて懐かしくもあり、これから更に「応生」とは違う道を進もうとしているので、ちょっとだけ寂しくもありと。

 

せめて離れきってしまう前に何かしら「応生」で文章を書きたいとふと思いついたので、僕が昔いたところの話をしようとするわけで。主に見聞を下にして書くので、かなりバイアスがかかっているかもしれない。そこは、ご了承していただければ。(というか、本来ブログってそんなもん)

 

僕の専門は、生物工学。生物工学といっても色々あるが、僕がいたところは、歴史的に化学工学という学問の流れを受けている。化学工学というと、日常生活に必要なモノの原料をどうやって「安く」、「たくさん」、「高品質」で、さらに最近は「環境にやさしく」作るかっていうことを考えている学問。例えば、むっちゃ保温性に優れた化学繊維を試験管内で合成するのが合成化学。それをどうやって化学工場の大規模なタンクで大量生産しようかって考えるのが化学工学。ちなみに化学工学者の年収は、高いらしい。

 

応生の生物工学は、化学工学の風味が混じった生物工学。要は、どうやって「(微)生物」を使って「安く」、「たくさん」、「高品質」なモノを作るかっていうことを考えてきたところ。

 

「(微)生物」を使ってつくるモノって何?

それは、もちろん…

酒!

 

 

 

 

酒の話。

応生の源流は、(旧)大阪工業学校の醸造科。兵庫県の灘にある酒蔵から「酒造りを科学して欲しい」と要請があったとのこと。灘といえば、日本酒が有名。剣菱とか、菊正宗とか、大関とか、白鶴とか。ついでにいうと、有名な灘高校も灘の酒造業者が設立したらしい。

 

日本酒は、酒造りのプロである杜氏の長年の経験と勘で造られてきたが、やっぱそれだけじゃ限界。例年よりも仮に酒の出来が悪いとして、長年の経験と勘で、その相関関係は分かっても原因を特定するのは難しい。例年よりも気温が高かったからきっと酒の出来が悪かったんだろうってのは分かっても、気温が高かったから微生物の中で起きている生化学反応が上手く進まず酒の出来が悪かっただろうみたいなところまではわからない。相関関係は分かっても原因まで至らないという話。

 

こんな状況を打破しなければということで、、、

微生物がどうやって米を酒に変えているか、ちゃんと科学して、

「おいしい」日本酒を「安く」、「たくさん」造ろうってことでできたのが、醸造科。

僕が学部のとき所属していた応生のはじまり。

 

そんな歴史があってか、応生には、酒の講義があったり、工場見学に清酒工場に行ったりと。

 

ちなみにNHKの朝ドラ「マッサン」の主人公、竹鶴政孝氏は、応生の大先輩であり、ニッカウヰスキーの創業者でもある。

(「マッサン」、見たことがないので、これ以上、話を掘り下げられない。。。そもそも下宿先にテレビがない)

 

 

 

醸造→醗酵。

微生物がつくるモノって酒以外にもあって、醤油とか、味噌とか、チーズとか、ヨーグルトとか。まとめて醗酵食品だなんて言われているやつ。原料(米、大豆、牛乳とか)が微生物の力によって人間に有益なモノ(酒、醤油、チーズとか)に変わることを醗酵と言うらしい。人間に害のあるモノ(パンに生えたカビとか)に変わることは、醗酵じゃなくて腐敗だそう。

 

醸造から醗酵へ名前が変わった理由は知らないが、酒から得られた知見を醗酵食品とか、その他とかへ広げたんじゃないかと思う。

 

 

醗酵→生物工学。

微生物がつくるモノって醗酵食品以外にもあって、バイオプラスチックとか、バイオエタノールとか、その他諸々。

そもそも別に、微生物がつくるモノばかりに注目する必要もなくて、iPS細胞や農作物といった生物自身がモノ(価値のある商品)となるような生物をどうやって「安く」、「たくさん」、「高品質」に育てようとか、微生物を使ってどうやって環境を浄化しようとか、研究の切り口はどんどん多様化して、分野はもはや醸造や醗酵って枠では収まらないほど大きくなった。

 

ちなみに、環境を浄化につながる話として、先月出席した同窓会で「微生物を使って鉱物から金属を取り出す。微生物を使って鉱山から出る有害物質を取り除く」という講演を聴講した。バイオマイニングっていう分野を初めて知った。

(話変わるが、前に問いたIELTS(英語の試験)のリーディングで鉱物から“金”を取り出す方法(ヒープリーチング法)は、環境に良くなくて大変、って話を読んだ。バイオマイニングは、この状況を変えられるのか!?)

 

 

 

薬の話。

生物がつくるモノについて酒の話から始まって、今度は薬の話。ここで出てくるオプジーボ。オプジーボの研究開発に多大な貢献をされた柴山史朗博士、実は応生の卒業生。

 

僕が学部3年のときに応生が120周年を迎え、「大阪大学産業バイオ120年」シンポジウムが開かれた。そこで柴山博士も講演されて、オプジーボの研究開発の裏話を色々知れた。当時、免疫療法はエセ科学扱いされていたこともあり、世間からの逆風が強かったそう。それに加えて、抗がん剤開発には手を出さないって方針だった小野薬品工業で抗がん剤の研究開発をするもんだから社内での逆風も強かったそうで。

 

柴山博士の書かれた研究開発のお話はこちら。文章に出てくるニボルマブは、オプジーボのこと。(オプジーボは商品名)オプジーボの作用機構は、小野薬品工業の動画が分かりやすい。

 

体を敵から守るのが免疫。もちろんがん細胞も敵なので免疫がやっつける。ただ、がん細胞の中には、免疫に関わる細胞(T細胞)が持つPD-1という膜タンパク質に「攻撃しないで」ってシグナルを送る賢いやつらがいる。「攻撃しないで」って言われたT細胞は、がん細胞を攻撃するのを止めてしまう。それじゃあ、PD-1にくっつくタンパク質(抗体)を投与すれば、がん細胞が囁く「攻撃しないで」って声が聞こえなくなるよね、ってことでできたのがオプジーボ。

 

ただ、別に「攻撃しないで」って声に耳を傾けるPD-1は悪いやつじゃなくて、免疫が自分自身を間違って攻撃しないために大事だったりする。(免疫が自分自身を攻撃する病気は自己免疫疾患)

 

 

 

薬と応生。

オプジーボは、抗体。

抗体は、タンパク質。

タンパク質は、アミノ酸が繋がったヒモ。

アミノ酸は、カルボキシル基とアミノ基を持つ分子。

 

アミノ酸の種類は無限にあるが、生物が使うアミノ酸は、およそ20種類。20種類のアミノ酸を上手いこと繋げて、アミノ酸でできたヒモがいい感じに折り畳まれることによってタンパク質になる。アミノ酸を繋げる順番とか、折り畳み方を間違えれば、機能を持たないタンパク質になり得るし、下手すれば、毒になる。

(蛇とか蜂の毒は、タンパク質。プリオンは、脳みそを穴だらけにする折り畳み方を間違えたタンパク質。アルツハイマー病の原因は、折り畳み方を間違えたタンパク質じゃないかって言われている)

 

厳密にアミノ酸を繋げて、アミノ酸のヒモを厳密に折り畳んでオプジーボをつくる。(それに加えて、タンパク質には糖の鎖で飾り付けしないと、はたらかないやつらがいる。オプジーボもそう。糖鎖の構造は複雑)合成化学でこんなことをするのは無理だけれども、生物を使えば、このような緻密なことができる。そのため、オプジーボをはじめとする抗体医薬品は、遺伝子組換えを行った細胞でつくられる。(よく使われるのは、チャイニーズハムスターの卵母細胞(CHO細胞)って昔、講義で聞いた気がする)生物を使ってつくる医薬品をバイオ医薬品といい、どんどんと市場が拡大している。

 

けれども、バイオ医薬品は、クソ高い。オプジーボの薬価は、特にクソ高く、発売当初は小さな一瓶(100 mg)で70万以上。(今は、もっと安くなっている)

生物を使う以上、培養にお金がかかる。生物の遺伝子を無理やりいじってバイオ医薬品をつくらせるようにしても、つくられる量はごく僅か。(そもそも遺伝子組み換えされた生物は、医薬品をつくるために生まれてきたわけじゃない)最終的に細胞を壊して、培養液からバイオ医薬品を精製することになるのだが、この過程にむちゃくちゃお金がかかる。培養液の中には、僅かな量のバイオ医薬品と膨大な量の培地成分、細胞の残骸。人の体に打つ以上、培養液中の膨大なゴミの中から僅かな薬を取り出さないといけない。

 

そんなこんなでバイオ医薬品は、クソ高い。

どうにか、「細胞」を使って「高品質」で「たくさん」、「安く」、オプジーボをはじめとする「バイオ医薬品」ができないものか…。

察しのいい人は、お気づきだと思う。そう、この薬の話は、結局のところ、さっきした酒の話と同じ。どうやって、「生物」を使って「高品質」のモノを「たくさん」、「安く」つくろうか。

 

実は、美味しい酒を追い求めて培われた120年を超える「応生」の知が、人の命を救うための薬づくりを見えないところで支えている。

 

 

 

最後に。

「応生」の歴史的な流れから分かる通り、卒業生は主に食品業界に就職する。けれども製薬業界に就職する人が増えてきて、つい最近、製薬業界に就職する人が食品業界よりも多くなったって話を聞いた。そして、応生の研究室も製薬・医療分野にどんどん力を入れている感じがする。

 

製薬とか医療分野の発展にはものすごく興味があって、よく調べたりするんだけれども、実は僕のやりたいことではない。

「応生」が進む先に僕がやりたいことはきっと「ない」。そんなわけで、ここから離れようとしているし、離れる前になんかしらの文章を書きたいと思い立ったっていうのは、最初の方に言った話。

 

結局は、離れてしまうけれども、卒業生の一人として「応生」がさらに発展することを願ってやまない。

生物工学コース|大阪大学大学院工学研究科生命先端工学専攻

 

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