目次。
- 目次。
- はじめに。
- Universal quantum computation using the discrete time quantum walk
- Advances in quantum machine learning
- Advances in Quantum Deep Learning: An Overview
- Perfect state transfer by means of discrete-time quantum walk search algorithms on highly symmetric graphs
- Emergence of Randomness and Arrow of Time in Quantum Walks
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【宣伝】ギターも歌も下手だけど、弾き語りをやっているので、よければ聴いてください。
はじめに。
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ちょくちょく宣伝しているが、新型コロナウイルスの論文を使って、「研究者がどうやって未知のウイルスの正体を暴くのか?」について説明した文章を一般の人向けに書いたので興味のある方はどうぞ。
blog.sun-ek2.com
加えて、PCR検査の仕組みと、それに代わるかもしれないゲノム編集技術を応用した新しい検査方法に関する論文を一般向けに説明したので興味のある方はどうぞ。
blog.sun-ek2.com
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「論文版はてなブックマークとは何ぞや?」という話は、以前したので、以下の文章を参照のこと。
blog.sun-ek2.com
前回の話はこちらから。
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Universal quantum computation using the discrete time quantum walk
著者・雑誌名。
Neil B. Lovett, Sally Cooper, Matthew Everitt, Matthew Trevers, Viv Kendon
arXiv, March 2010
内容。
離散的な量子ウォークで量子コンピュータが作れるよっていう論文。もうちょっと詳しく言うと、離散的な量子ウォークで万能ゲート(位相ゲート、アダマールゲート、CNOTゲート)が作れることを示している。
最初は、量子状態を指向性を持たせつつ、完全な状態で、量子ウォークによって転送する話。これは、一次元上に並んだ隣接するノードそれぞれを2本のエッジでつなぐことで達成される(wire)。x-1から2本のエッジを通して、xに量子状態が転送される。ここでcoin operatorとして、Grover coinを使っている。この演算子をcoin operatorとして使うことによって、xからx-1へ向かうcoin stateの確率振幅が相殺されて0になり、x+1に向かう2本のエッジを指し示す同じ大きさの確率振幅のみが残る。この状態でsift operatorを作用させることによって、量子状態は2本のエッジを通って、x+1に転送される。このwireが量子回路図の横線に対応する。量子状態は、一方通行、かつ完全な状態で、wire上を移動し、様々な変換を受ける。一つのwireが一つの量子状態に対応する(このwireは、に対応といった感じ)。
CNOTゲートは、制御量子ビットが1のwireを互いに交差させることによって達成される。位相ゲートは、4本のエッジが繋がっているノードの間に2本のエッジが繋がっているノードを挟むことによって達成される。実際の系では、Grover coinには、が掛けられている。この位相の変化は、wire間で同じように起こるので、wire間の位相差は0であるが、2本のエッジが繋がっているノードを一方のwireに挟むと、wire間で位相差が発生する。ちなみに2本のエッジが繋がっているノードでは、が掛かっていない2×2のGrover coinを使う。アダマールゲートは、位相ゲートと8×8のGrover coinを使えば達成される。
CNOTゲート、位相ゲート、アダマールゲートが作れるので、量子ウォークで量子計算ができる。ただn量子ビットを取り扱うためには、個のwireのグラフが必要。
Advances in quantum machine learning
著者・雑誌名。
Jeremy Adcock, Euan Allen, Matthew Day, Stefan Frick, Janna Hinchliff, Mack Johnson, Sam Morley-Short, Sam Pallister, Alasdair Price, Stasja Stanisic
arXiv, December 2015
内容。
量子機械学習のレビュー。つまり量子機械学習全般の研究を浅く広くまとめたもの。イギリスにあるブリストル大学の博士課程の学生向けの文章らしい。
色々な機械学習の量子版の研究を紹介していた。機械学習のモデルは結構知っているつもりであったが、「ホップフィールド・ネットワーク」と「ボルツマンマシン」は詳しく知らなかったので、ちょろっと勉強してみた。量子ウォークを使って、量子ニューラルネットワーク(特にホップフィールド・ネットワーク)を構築しようという研究があるらしい。
レビューなので、色々な量子機械学習の研究のイントロがたくさん紹介されていた。
Advances in Quantum Deep Learning: An Overview
著者・雑誌名。
Siddhant Garg, Goutham Ramakrishnan
arXiv, May 2020
内容。
量子ディープラーニングのレビュー。量子ディープラーニング全般の研究を浅く広くまとめたもの。
入力データは1つの量子状態、もしくは1つの量子ビットだけ1で、残りが全て0の量子状態の重ね合わせ。(まだ、入力データに任意の量子状態の重ね合わせを使うことができないのか?)
量子ディープラーニングが学習するのは、量子ビットに作用するユニタリ演算子。もっと細かく言うと、任意のユニタリ演算子は、パウリ行列のテンソル積の線形和で表され、学習するのは、その線形和の係数。古典ディープラーニングと同様に損失関数を定義することができて、学習は、勾配降下法にて、損失関数を最小にすることによって行われる。
色々と量子ディープラーニングのモデルが紹介されていたが、その中でも特に量子畳み込みニューラルネットワークが詳しく説明されていた。多分、このモデルが一番研究が進んでいるのだろう。最初に提案されている量子ディープラーニングは、n量子ビットに対して、それぞれn個のユニタリ変換が用意されていて、それが多層に重なったもの。一方で、量子畳み込みニューラルネットワークは、k番目の量子ビットとk+1番目の量子ビットをまとめてユニタリ変換する。これが古典畳み込みニューラルネットワークの畳み込み層に対応する。(そうでもないっぽい。。。詳しくは、こちら。)その後、k+1番目の量子ビットを測定し、測定した値に対応したユニタリ変換をk番目に量子ビットに作用される。これは、古典畳み込みニューラルネットワークのpooling層に対応する。
この論文では、最後に少しだけ、疑似量子ディープラーニングについて紹介していた。これは、古典コンピュータで動く、量子力学の知見を取り入れたディープラーニングのことである。(今までのアルゴリズムは、量子コンピュータでしか動かない)
この論文では、紹介されていなかったが、昔、僕がこのブログで紹介した”Quantum walk neural networks with feature dependent coins”は、疑似量子ディープラーニングに対応すると思う。
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Perfect state transfer by means of discrete-time quantum walk search algorithms on highly symmetric graphs
著者・雑誌名。
Martin Stefanak, Stanislav Skoupy
arXiv, August 2016
内容。
量子状態を離散的な量子ウォークによって転送しようという論文。対象としているのは、星状グラフと完全グラフ。加えて、完全グラフ上で量子状態をSzegedy’s walkによって転送する話もあった。Szegedy’s walkは、量子ウォークの一種で、詳しいことは知らない。
星状グラフのcoin operatorは、中心のノードと周辺のノードで分けて定義し、足し合わせる。中心のノードには、Groverの拡散演算子を作用させる。一方で、周辺のノードには、単に単位行列を作用させる。ただし、量子状態の輸送元と輸送先の量子状態の位相は毎回、πだけずらされる。
coin operatorとshift operatorを掛けたもの()を周辺ノードに対応する量子ケットに2回作用させると、中央ノードに対応する量子ケットに射影されたのちに再び周辺ノードに対応する量子ケットに射影され直される。じゃなく、を考えると、内部状態(coin state)は、全て同じ(0=中央ノードを指し示している)なので、内部状態と位置に関する量子ケットを位置だけの量子ケットとみなして解析を行うことができる。
まずは、転送元の量子ケットと転送先の量子ケットと残りN-2個の量子ケットの足し合わせた量子ケットで新たに空間を張る(式6)(この操作は、量子探索アルゴリズムの説明とかにも出てくる)。この新たな3つの量子ケットを行列形式で表し、その固有値、固有ベクトルを求める。最初の3つの量子ケットは、固有ベクトルの線形和で書けるので、まずはそれぞれの固有ベクトルの時間発展を求め、そこから最初の3つの量子ケットの時間発展を求める。
求めた結果より、おおよそのステップで(Nは、周辺ノードの数)、転送元から転送先へ量子状態をほぼ完全に転送することができる。量子探索アルゴリズムの場合と同様にステップ数を増やし過ぎると逆に結果が悪くなる。
完全グラフの場合も完全グラフ+Szegedy’s walkの場合もやっていることは同じ。完全グラフ上のSzegedy’s walkは、完全グラフと完全グラフのコピーをこれまた完全グラフになるようにつないで、オリジナルのグラフとコピーされたグラフ間を行ったり、来たりするwalkらしい。Szegedy’s walkによる量子状態の転送は、それだけではダメで、先ほどと同様に転送元と転送先の量子状態の位相を毎回、πだけ反転させなければいけない。論文では、これをwith queriesと言っている。
Emergence of Randomness and Arrow of Time in Quantum Walks
著者・雑誌名。
Yutaka Shikano, Kota Chisaki, Etsuo Segawa, Norio Konno
arXiv, June 2010
内容。
量子ウォークのデコヒーレンスを解析的に調べた論文。RTN (Random Telegraph Noise)による量子ウォークのデコヒーレンスに関する論文は、ちょこちょこあるが、どれもシミュレーションベースの論文。解析的に調べられたものは、少ない。
この論文では、RTNではなく、PPM (Periodic Position Measurement)によって、デコヒーレンスを起こしている。その名の通り、PPMは、ある一定間隔で量子ウォークしている粒子を測定すること。は、量子ウォークのステップ数。は、測定間隔。は、測定回数。は、0から1の間を取る変数。であれば、毎ステップ、量子状態が測定されるので、(規格化された)確率分布は古典ランダムウォークと同じになる。一方で、であれば、最後まで量子状態が測定されないので、(規格化された)確率分布は量子ウォークになる。一方で、の場合、(規格化された)確率分布は、古典ランダムウォークと同じガウス分布となるが、その分散はの場合と異なる。古典ランダムウォークの場合は、(規格化された)分散は1で、の場合は、となる(aは、coin operatorの1行、1列目の成分)。規格化は、座標をで割ることによって行われる。なら分布幅は、でなら分布幅は、となる。
PPMによって、量子ウォークの確率分布にランダム性が生じるが、その生じ方は、に依っている。また、射影測定(PPM)が必ずしもコペンハーゲン解釈における量子から古典への遷移を起こすとは限らない。コペンハーゲン解釈によれば、測定によって、重ね合わせの状態は、1つの状態に収縮し、選ばれた状態以外は失われてしまう。このことより、射影測定はマルコフ過程で進むと思われるが、の場合の確率分布を見ると、マルコフ過程に一致した分布にはなっていない(式11)。
が無限大だとすると、の場合を除き、離散的量子ウォークは無限回観測されているということになる(測定によって得られるエントロピーも無限大)。しかし、その増大の仕方は、によって異なる。このことから、射影測定による時間の流れ(エントロピーの増大)は一定ではないことが分かる。
(ここいらが、よく分かんかった。測定によってエントロピーが得られるのは、こちらにちょろっと書いてある。一方で、エントロピーの増大を時間の流れと経験するっていう文言は、こちらにちょろっと書いてある。詳しいことは知らない)
(論文のAppendixでの時の確率分布の分散を求めていたが、式(A1)、(A4)、(A9)だけよく分からなかった。式(A1)は、別論文で別目的で使われていた数式を転用したものらしい。式(A4)は分散の定義だが、なんでそう定義できるのがよく分からなかった。式(A9)の関係式もどっから出てきているのか分からなかった)
この論文の内容とは直接関係なかったが、Section Ⅱで離散的量子ウォークとディラック方程式の関係性が紹介されていた。式(5)のようにcoin operatorを用意して、時間発展させたものは、ディラック方程式を満たすらしい。
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