Christoph Adami & Arend Hintze "Thermodynamics of evolutionary games"「進化ゲームの熱力学」を読んだ話。

目次。

 

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はじめに。

前回の雑誌会で使ったスライドも紹介しているので、よければどうぞ。

blog.sun-ek2.com

 

雑誌会は、論文を読んで研究室の人たちにプレゼンする会のこと。直接的な関係はないが、論文つながりということで、今まで新型コロナウイルス関係の論文を読んで一般向けに解説しているので、こちらもよければどうぞ。

 

『中国・武漢で発生した肺炎を引き起こす新型コロナウイルスのゲノム(設計図)を読んでみたという論文を読んでみた話。』

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『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で話題のRCR検査の仕組みとゲノム編集技術を応用した新たな検査法をゆるふわな感じで説明してみた話。』

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『【一般の人向け】新型コロナウイルスを試験管内で人工進化させまくって変異株をたくさん作ったという論文を読んだので解説してみた話。』

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Christoph Adami & Arend Hintze "Thermodynamics of evolutionary games"。

journals.aps.org

 

arXiv版(こちらは無料で読める)。

arxiv.org

 

雑誌会のスライド内でも指摘しているが、この論文にはいくつか計算間違いが含まれていると思う。

 

 

Colin Benjamin & Shubhayan Sarkar “Triggers for cooperative behavior in the thermodynamic limit: A case study in Public goods game”。

aip.scitation.org

 

arXiv版(こちらは無料で読める)。

arxiv.org

 

この論文では、終始、Adami & Hintze論文の間違いを指摘し、新たな提案手法で問題を解いている。この論文も読んでみたが、僕は両者の手法は数学的に等価だと思っている。

 

この論文では、Adami & Hintze論文の手法で問題を解き、その矛盾点を示しているのだが、そもそもAdami & Hintze論文の手法の再現がきちんとできていないと思う。

 

Adami & Hintze論文の間違いは、提案手法そのものが間違っているのではなく、途中の計算過程が間違っていると僕は思う。

 

 

 

 

雑誌会に使ったスライド。

スライドは一般の人向けには作っていないが、ブログに載せているこの文章は一般の人向けに書いている。

 

 

どんな論文?

イジングモデルを使って進化ゲーム理論の問題を解いたという論文。

 

その名の通り、進化ゲーム理論は、ゲーム理論を使って、生命の進化とかを理解しようとしている学問分野。特に「協力の進化」などがよく研究されている。そして、雑誌会で紹介した論文も「協力」に焦点を当てている。

 

進化ゲーム理論を勉強したい人は以下の本がおすすめ。

 

周りを見渡せば、人々は互いに協力し合って生きている。その人々を形作っている細胞たちは互いに協力し合って、1つの個体を形成している。さらに細胞内では、様々な細胞小器官が互いに協力し合って、1つの細胞を形成している。もっと細かく見ると、ヒトを形作っている分子たちは、互いに協力することによって、巨大で複雑なシステム(ヒトという生命体)を動かしている。

 

別にヒトに限った話ではない。動物だって互いに協力し合う。個体間で協力し合わない生物も、その生物を形作っている細胞は互いに協力し合っている。細胞1個でできている単細胞生物であっても、細胞内にある分子が互いに協力し合っている。

 

「協力」という現象は、周りを見渡せば、数多く見つけることができる。そして、「協力」は、生命を形作るためになくてはならない現象である。分子間、細胞間、個体間の協力関係が生まれなければ、複雑な生命は生まれない。

 

このように「協力」は、当たり前にみられる現象であるが、よくよく考えてみると、これは当たり前のことではない。なぜなら協力には「コスト」がかかるからである。「コスト」を支払って、別分子、別細胞、別個体に「協力」するよりも、「コスト」を支払わず、別分子、別細胞、別個体の「協力」を搾取した方が高い利得を得ることができる。

 

人間社会で言うと、会社に行って労働したり、税金を納めたりすることが「協力」である。これによって、時間やお金を消費する。これが「協力のコスト」である。これに対し、協力し合っている社会システムで、労働を行わずに他人のお金を奪ったり、税金を払わなかったりする行為などが「協力の搾取」である。これらの行為は、「協力のコスト」を支払わずして、協力している社会システムの甘い汁だけをすすれるので、利得が高い。

 

人間社会の話をすると、「いや、でも刑務所が…」みたいな話になるので、もっと原始的な生命体を考えてみる。このような生命体にとって、他の個体と協力するよりも、他の個体の協力を搾取する方が、生存に有利だと考えられる。「コスト」を支払わず、他の個体の努力を横取りできるからである。そのため、進化の過程で、他の個体を裏切るような個体がどんどんと増えて、「協力」が自然界から淘汰されてしまうはずである。しかし実際は、そうなっていない。身の回りを見渡せば、人々や動物は協力し合っているし、生物を形作る細胞や分子は互いに協力し合っている。

 

明らかに「搾取」よりも「協力」の方がメリットが少ないはずなのに「協力的なシステム」は自然界から排除されていない。

 

なぜ?

 

…これは進化ゲーム理論が取り組んでいる謎の1つ。

 

一方で、イジングモデルというのは、物性物理学、統計物理学、量子情報なんかで出てくる理論モデル。

 

物性物理学、統計物理学では、磁性体(簡単に言うと、磁石のこと)の研究で用いられる。量子情報では、量子アニーリング型の量子コンピュータの研究で用いられる。

 

話は逸れるが、量子情報の話題を一般の人向けに解説した文章があるので、よければどうぞ。この文章内でおすすめしている佐川 弘幸・吉田 宣章 「量子情報理論」という本には、イジングモデルと量子アニーリング型の量子コンピュータの説明が載っている。

 

『「量子コンピュータで世界中の暗号が破られる?」ショアのアルゴリズムをゆるふわな感じで説明してみた話。』

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このイジングモデルを使って「協力の進化」を数式で記述するというのが今回紹介した論文がやっていること。イジングモデルは、上向き・下向きの「スピン」というものを持っている原子が格子上に配置された理論モデル。「上向きのスピン」を「協力する個体」に、「下向きのスピン」を「裏切る個体」に、「利得にマイナスをつけたもの」を「エネルギー」に対応付けすることによって、イジングモデルを使って、進化ゲームを解析的に調べることができる。

 

 

 

 

さいごに。

大学院でやっている研究は実験進化であるが、僕は実験系の研究よりも理論系の研究の方が好きなので、雑誌会では毎回、理論系の研究を選んで紹介している。

 

生物の実験系の研究室なので、僕以外の人は、生物の実験系の研究を紹介している。誰も理論系の論文を選ばないので、僕は理論系の論文しか選ばない。みんなと同じような論文しか選べないのであれば、そもそも雑誌会の意味がないと思う。それならば、一人で論文を読んでいた方がいい。

 

今回紹介した論文は、ポスドク先(就職先)探しのために色々な研究を調べているときに偶然見つけたもの。ポスドク先では、この分野の研究がしたいと何となく思っている。

 

僕が今やっているのは、実験進化なので、それを理論的に記述する進化ゲーム理論に以前から興味がある。そして、昔から量子物理学や量子情報の研究に強い興味があって、いつかその分野に足を踏み入れたいと思っている。実際に足を踏み入れようとしたが、失敗してしまった。

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そのため、博士課程が終わった後にもう一度、進化ゲーム理論の研究という体で、イジングモデルを弄りまわし、量子物理学や量子情報の研究に近づけたらいいなと思っている。

 

 

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