「目からレーザービームの話。」を再考した話。

目次。

 

 

はじめに。

この文章は、僕が学部時代に所属していた「大阪大学外国語学部合氣道部」で毎年発行される部誌に寄稿したもの。学部1年の頃に『目からレーザービームの話。』というタイトルで文章を書いて寄稿したので、修士1年のときに学部1年の頃に書いた話題でもう一度、文章を書きたいと思って書き始めた。

 

阪大には「大阪大学合氣道部」と「大阪大学外国語学部合氣道部」という2つの合気道部があるが、僕が所属していいたのは後者。元々は、大阪外国語大学(阪外大)という別の大学の合気道部だったが、2007年に阪外大が阪大に吸収されて以降、阪大の合気道部の1つになった。

 

部誌は、主に部活に在籍していた卒業生の方々と部活に在籍してる部員に配るもの。名前と歴史的な経緯から容易に想像できると思うが、部活の卒業生と部員は、99%以上、大阪大学外国語大学もしくは大阪大学外国語学部の人たちである。「読者の99%以上は文系である」ということを念頭に入れ、できるだけかみ砕いで書いたつもりであるが、やっぱりどっかで読んで頂けないのではと思うことがあるので、ブログにも載せることにした。個人名とかプライバシーに関わるようなところ、ちょっと気になるところには変更を加えたが他は大体、寄稿した文章と同じである。

 

寄稿した文章は、むちゃくちゃ長い。前提知識がない人に何かを説明するときは、まず前提から話をしなければいけないが、物理の場合、知識が縦積みになっているので説明する事柄が多くなって、文章が長くなる。Aというものを説明するためには、BとCという知識が必要で、BとCを説明するには、更にD、E、Fという知識が必要であるといった感じに。

 

また、横道に逸れる本筋に直接関係ない内容も加えている。これも文章が長くなった要因である。例えば、「レーザーの説明」であるのにも関わらず、「重力波」に話が逸れたり…。といっても横道は、本筋と間接的に関係あるような事柄を選んで行っている。「重力波」を例にとると、この波は「一般相対性理論に出てくるアインシュタインの重力場方程式をいじくりまわしていたら式の形が波動方程式と同じ形になったよ」っていうところから今から100年ぐらい前にアインシュタインによって予言されていたもの。そして100年経ってやっと重力波が観測されて、2017年にノーベル物理学賞の対象になった。一方で、レーザーの光の実体である電磁波は「電磁気学に出てくるマクスウェル方程式をいじくりまわしていたら式の形が波動方程式と同じ形になったよ」っていうところからマクスウェルによって予言されていたもの。そしてヘルツによって電磁波は実験的に実証された。そういわれると、蛍光灯から出てくる光といった身の回りにありふれた「電磁波」と宇宙の遥か彼方の話である「重力波」は、何か似ているなと感じると思う。ニュースに出ていた「重力波」という言葉に少し親近感が湧いたかもしれない。

 

この文章は、文系の人向けにそもそも書き始めたものなので、当初から灘中学校の「『銀の匙』授業」っぽいものにしたいと考えていた。文系の人に科学に興味を持ってもらいたいと思って、本筋と間接的に関係のある横道にたくさん逸れたのである。

 

以下、部誌に投稿した文章…。

 

 

 

 

「目からレーザービームの話。」を再考した話。

「僕は、一回生です」

…というのは、合氣道部の飲み会の一人一言でいう言葉である。僕が一回生であるのは、事実であるが、この言葉を言った瞬間、部員から冷ややかな視線が浴びせられる。「いや、どう考えても一回生じゃないでしょ」と。

僕は、平成三十年度に阪大に入学した一回生である。といっても、学部一年ではなく、情報科学研究科というところに所属している修士課程一年(厳密には博士前期課程一年)である。ちなみに情報科学研究科というのは名ばかりで、僕のいる研究室は完全に生物系の研究室である。

僕が一回生、それも学部一年の頃に部誌に何を書いたか思い出してみる。ひょっとすると覚えておられる方もおられるかもしれないが、「目からレーザービームの話。」というタイトルで文章を書いた。

あれから四年、再び阪大の一回生になった。そして、この少しふざけたタイトルでもう一度、文章を書く。僕の専門は、生物であって、レーザーではないので、この文章中にいくつか間違いがあるかもしれないが、そこはお許しいただきたい。

 

できる限り、分かりやすく書いたつもりなのでご安心を。

 

この文章では、数学を用いていない。数学を持ち出せば、この文章は何百ページにもなる。前回も書いた気がするが、数学を使わないと物理学の面白さは、百分の一ぐらいになると思う。物理学は、宇宙を数学で記述する学問であり、数学を用いない物理学は、文字を用いないで外国語の勉強をするようなものだと思う。物理学を勉強したい人は、ぜひ数式とともに…。

 

物理学の話。

目からレーザービームの話をするのであれば、まずはレーザーの話を。レーザーは、英語でlaserと綴る。これは、ひょっとするとあまり知られていないと思うが、laserは略語である。Laserの正式名称は、とても長い。「Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation」である。それぞれの頭文字をとってlaser。日本語では、「輻射の誘導放出による光増幅」という。そして今からレーザーの話、正式には輻射の誘導放出による光増幅の話をする。

輻射の誘導放出による光増幅の話をするのであれば、光の話を。…という具合でやっているとどんどん文章が発散していって、ちゃんと最後に収束するか不安になる。といっても、光の話をせずしてレーザーの話はできないのでこれから光の話をする。

物理学の分野で光を研究する領域のことを「光学」という。 ―余談であり、これは前にも書いた気がするが、阪大は、光学の分野で世界トップレベルである。光学専門の研究者が日本で一番多く集まっているのは、阪大であると言われている。そして、吹田キャンパスにあるレーザー科学研究所はものすごく大きい。そこでは、プラズマを発生させたり、核融合をさせたりと色々なことをやっている。― 光学は、おおよそ「幾何光学」、「波動光学」、「量子光学」の三つに分けられる。それぞれ光を「線」(光線)として考えるか、「波」として考えるか、それとも「波でもあり粒子でもあるもの」として考えるかの違いである。光は、線であり、波であり、粒子であると言われると頭がこんがらがると思うが、心配不要。お偉い科学者であっても「光とは何か?」という質問に対して正確に答えることはできない。この三つの領域すべて、「実験事実」を上手く説明できるように、光という「わけのわからないもの」を人間が理解できるもの(線、波、粒子)に帰着させているだけである。

まずは、幾何光学。幾何とは雑に言うと図形のことであり、光を線、いわゆる光線として捉えて、作図によって光を理解しましょうという理論である。実は、幾何光学は小学校、中学校で登場する。きっと、この文章を読んでいる皆さんは、幾何光学をマスターしているであろうと思われる。と言ってもピンとこない方は、「ろうそくの間に凸レンズを置くと反対側にどんな像ができるか作図せよ」という問題を思い出していただきたい。きっと、定規を使って線を引っ張って、線の交わるところに逆さまになったろうそくの絵を描いたであろう。これがまさしく幾何光学であり、歴史は最も古く、紀元前まで遡る。

さて、しばらくすると「光線は何でできているの?」という話になる。この問題に取り組んだ有名な人といえば、アイザック・ニュートン。ニュートンは、「ニュートン力学」(「古典力学」)の創始や微分積分法の発見などといった革命的な業績を持つ。実はそんな彼は、光学の分野でも反射望遠鏡の発明やプリズムを使った分光の研究(「プリズム」はガラスでできた三角柱。白い光をプリズムに通すと屈折率の違いによっていろいろな色の光に分かれる)などといった偉大な業績を持っている。彼は、「光はニュートンの運動方程式F=maに従う粒子である」と考えた。光の粒子説である。(これは、後の量子光学における粒子とは全くの別物である)しかし、彼の「光は粒子である」という描像は、数々の実験事実を説明することができなかった。

これに対し、「光は波である」というフック、ホイヘンスらの「波動光学」が光の粒子説に代わって発展した。小さい穴が二つ開いた壁に光を照らすと壁の向こう側に縞模様(「干渉縞」)が見える。また、ある物体を置いて光を遮っても、少しだけ光は物体の後ろの部分に回り込むことができる。(「光の回折」)光は、なんであるかは分からないが、波であるという風に思い込んで理論を構築すれば、これらの光特有の現象が説明できたので、波動光学は栄えたのである。

波動光学と同時期ぐらいに「電磁気学」と呼ばれる学問が発展した。その名の通り「電気」と「磁気」という二つの「気」に関する理論である。電気を帯びている(電荷をもつ)粒子に力を及ぼす空間のことを「電場」と言い、磁気を帯びている(磁荷をもつ)粒子に力を及ぼす空間のことを「磁場」と言う。二つ合わせて「電磁場」と呼ばれる。電磁気学の基本方程式は、「マックスウェル方程式」。四本のベクトル方程式である。マックスウェル方程式によると、磁場が変動すると電場も変動する。導線をぐるぐる巻きにしてコイルを作り、そこに棒磁石を近づけたり、遠ざけたりしたら電流が流れるというのは、中学校くらいの理科の時間に実験したと思う。また、この現象は、手回し発電機でおなじみであると思う。磁石を近づけたり、遠ざけたりすることで磁場が変化する。磁場の変化に合わせて、電気を帯びている粒子に力を及ぼす電場が変化する。電場が変化すると、マイナスの電気(負の電荷)をもった電子が動く。(動いている電子の流れが電流)また、電場が存在すると(変動しなくてもいい)、磁場が発生する。電流を流した導線の近くに方位磁石を置いたら北を指さなくなるというのも中学校くらいに理科の時間に実験したと思う。電流によって電場が発生し、電場の変化に合わせて、磁気を帯びている粒子に力を及ぼす磁場が変化する。これによって磁気をもつ方位磁石が変動する磁場の方向にくるくると動くのである。ここまで磁場→電場、電場→磁場の話をした。察しのいい人はお気づきだと思うが、磁場が変動すると電場が変動する。変動した電場によって新たに磁場が変動する。つまり、磁場→電場→磁場→電場→…となっていく。このような電場と磁場の変動、すなわち電磁場の変動の波のことを「電磁波」と言う。当時、電磁波は実験的に実証されていなかった。(光も電磁波であるが、誰もそうは思わなかった)ジェームズ・クラーク・マクスウェルは、先ほどの四本の「ベクトル方程式」からなるマックスウェル方程式をいじくれば波を表す「波動方程式」になることから電磁場の存在を予言した。(ちなみにアルベルト・アインシュタイン博士は、「一般相対性理論」から「アインシュタインの重力場方程式」という「テンソル方程式」を導いた。この重力場方程式をいじくると、なんと波を表す波動方程式が出てくる。これによりアインシュタイン博士は、今から100年以上前に「重力場」の変動が波となって伝わる「重力波」の存在を予言した。2017年に重力波を実験的に検出した研究者たちにノーベル物理学賞が贈られたのはご存知の通り)

先にちょっとだけ言及したが、マクスウェル方程式、電磁波の実験的実証に続き、光が電磁波の一種であるということが後に明らかになった。電磁波は波であり、波とは、こんな感じ(~~~)である。今、波線を三つ書いたが、この波線一つ分の幅を波長という。波長が380 nm(紫)~750 nm(赤)の電磁波のことを光(可視光線)という。(nmは、ナノメートルと読む。ナノは、10-9を表す接頭辞。一ナノメートルは、十億分の一メートル)380 nmの電磁波は、紫色の光である。この電磁波よりも波長が小さい電磁波を紫色の外側ということで紫外線という。もっと波長が小さい電磁波は、X線という名前で呼ばれる。レントゲン写真を撮るときに使われる電磁波である。もっともっと波長が小さい電磁波は、γ線と呼ばれ、放射能を持った物質からバンバン出ている電磁波である。X線、γ線は、体に悪いのでご注意を。一方、750 nmの電磁波は、赤色の光である。この電磁波より波長が大きい電磁波を赤色の外側ということで赤外線といい、それよりも波長が大きい電磁波のことを電波という。(電波という名前であるが電磁波)電波は、スマートフォンで通信するときに使われたり、電子レンジ(マイクロ波は、食べ物の中の水分子を振動させる)に使われたりする。

ここら辺まででいわゆる「古典論」の話が終わった。電球が光る仕組みは、先ほどの話で説明することができる。電流をフィラメントと呼ばれる電気抵抗の大きい部品に流すと電流が遮られる、すなわち電子がフィラメント内の原子と衝突する。電子が衝突すると近辺の電場が変動する、電場が変動すると磁場が変動して…電磁波(光)が生じる。電球の発光は、「熱放射」と呼ばれる仕組みによるものである。一方、レーザーは熱放射で発光しているわけではない。ここからは、「量子論」の話をする必要がある。(ちなみにAさんが電気回路の電流を変動させると、電場が変動して電磁波が発生する。Bさんが離れたところに導線と電流を検出する検流計を繋げて電気回路を作っておくと、この回路に電磁波が届く。届いた電磁波によってBさんの作った電気回路の電場が変動して、電流が流れ、それを検流計で調べることによってBさんは自分の回路にどのように電流が流れたか知ることができる。Bさんの電気回路に流れる電流の変動パターンは、Aさんが作ったものと一緒である。例えば、電流をたくさん変動させたら「1」、あまり変動させなければ「0」という風にAさんとBさんの間で約束しておけば、情報を送ることができる。そしてこれが無線通信の仕組み)

原稿が四ページ目に突入してもレーザーの話が始まらないのは、我ながら狂気じみているような気がする。レーザーの話をするためには、「量子論」に触れないわけにはいかないが、いったいどんな文章を書けばいいのやら。

前回も述べたが、全知全能であると考えられていた「ニュートン力学」は十九世紀末に破綻する。ニュートン力学を破綻に誘った問題の一つが「黒体輻射」である。黒体輻射の問題は、学部一回の四月に「化学概論」という講義でいきなり出てきた。化学概論という名であるが、実質的には「量子化学」という量子力学を化学に応用した分野の講義である。これが僕と「量子力学」の出会いであるが、この出会いは最悪だった。「Black Body Radiation」という黒板に書かれた見出しで始まった第一回目の講義。最初から最後まで何を言っているか分からなかった。教科書を読んでみても何を言っているのかわからない。入学して初っ端に単位を落とすかもしれないという恐怖に駆られた。(そもそも、教科書に黒体輻射の話はなかった。教科書に載っていないので、講義で取り上げたらしい。そして先生は雑談と称して、ボルツマン分布やらフーリエ変換やら学部一回生には分からないような話を延々とされていたのでなおさら訳がわからなくなった)

それはさておき、学部一年の四月の僕を絶望のどん底に突き落とした黒体輻射の話をする。黒体輻射の研究は、量子力学、レーザーの話に繋がってくる。

まずは黒体とは何かという話から。黒体とは、その名の通り真っ黒な物体のことである。真っ黒な物体とは何か。それは、当たった光をすべて吸収して一切反射しない物体のことである。光は一切反射させないが、自ら光を発することはある。黒体を熱すると、黒体を構成する原子が振動する。振動すると電場が変動し、磁場が変動し…、これはさっきした話である。これが黒体輻射。(ご存知の通り、リンゴがなぜ赤色に見えるかというと、太陽などの光がリンゴに当たり、赤以外の光が吸収されて、赤の光が反射して目に入るからである。何も反射しなければ、黒色)黒体は、一種の理想的な物体であり、現実の世界には、限りなく黒体に近い物体はあっても、完全に光を吸収する物体は存在しない。しかし、黒体に近い挙動をするものは存在する。それは、「空洞」である。空洞に小さな穴を開けて、そこに光を入れると、中で乱反射して、減衰して入射した穴には戻ってこない。つまり、光を完全に吸収するのである。ただ、空洞を熱すると先ほどの黒体と同様に光を発し、それが小さな穴から出てくる。これを「空洞輻射」という。現実に存在する空洞輻射の例は、鉄の溶鉱炉とか、ガラスの溶鉱炉とか。溶鉱炉の内部を熱すると光が出てくる。出てくる光は重要で、これを頼りに溶鉱炉内の温度を知ることができる。(「色温度」)これが黒体輻射の研究が盛んになった歴史的な背景である。いい鉄やガラスを作るためには、溶鉱炉の温度管理をきちんとしなければならない。溶鉱炉から出てきた光は、先ほどのプリズムで単色に分けられる。そして、赤色の強さがどのくらいの強さ、紫色の光がどのくらいの強さというのを調べて、その結果をグラフにすることができる。このグラフが温度によって特徴的な形をしていて、グラフの形(実際は、グラフの極大値からだと思うが)から温度を知ることができる。温度管理をするという工学的な目的ならこれで十分であるが、科学者の中には、なぜグラフがこんな形をしているのか、その原理を理論的に求めたいという一派がいた。グラフの形を説明する理論として有名なのは、「レイリー・ジーンズの法則」と「ヴィーンの放射法則」である。どちらの法則もグラフのある部分の形を説明することができるが、グラフ全体の形を説明することはできない。前者の法則は、赤色側の光の強さを説明することができるが、紫色側を説明することができない。後者は、紫色側の光は大丈夫であるが、赤色側の光は大丈夫じゃない。このような状況の中、マックス・プランク博士が「プランクの公式」を考案する。(マックス・プランク研究所という名前を聞いたことがあるかもしれない。ドイツにある有名な研究所)この理論は、「なぜかよくわからないけども、炉の光は、とびとびのエネルギーしか持てないと仮定すると、赤色側ではレイリー・ジーンズの法則っぽい式になって、紫色側ではヴィーンの放射法則なる新しい公式ができるよ」というもの。この「よくわからないけども、炉の光は、とびとびのエネルギーしか持てない」がニュートン力学破綻後に生まれた全く新しい概念である「量子論」の幕開け。ものすごく雑なたとえをすると量子の世界では、500キロカロリーの料理、1000キロカロリーの料理は作れるけども750キロカロリーの料理はどれだけ頑張っても原理的に作れない。(カロリーは、エネルギーの単位。物理では、ほぼ使わないけども、日常生活ではなじみがあると思う。ちなみに物理学でよく使うのは、J(ジュール)とか、eV(エレクトロンボルト)とか)

それでは、なんで光はエネルギーをとびとびにしか持てないのかという話になる。この問いにアインシュタイン博士は「光量子仮説」を唱えて、答えようとした。この仮説は、光というのは、あるエネルギーの最小単位をもつ光子であるというもの。ニュートンの時代に闇に葬られた光の粒子説が姿を変えて復活した瞬間である。これに関連するのは「光電効果」という、光を金属にあてると金属から電子が飛び出してくるという効果である。この光電効果は、光がエネルギーの最小単位を持つ粒であるという仮説に基づけば説明することができる。アインシュタイン博士は、光電効果の理論的な研究でノーベル物理学賞を受賞した。(相対性理論ではない)ちなみに光電効果の研究によると、光子のエネルギーは光の強さではなく光という波の振動数で決まる。(振動数と波長は反比例の関係にある。振動数が大きくなれば、波長が小さくなる)これは、日常の感覚からしたら不思議なことである。眩しすぎて直視できないような真っ赤な光よりも、今にも消えそうな紫色の光の方が光子一個あたりのエネルギーが大きい。紫色の光よりも振動数が大きい(波長が小さい)光は、エネルギーの小さい順から紫外線、X線、γ線である。(先ほども書いた通り、X線、γ線は、危険な電磁波である。光電効果の話をしたのでもう少し深く突っ込める。電磁波の振動数が大きくなるにつれて、金属から電子を叩き飛ばす能力が高くなる。そして、そんな電磁波が人体に当たると、多くの確率で、人体に一番多く含まれる水分子から電子を叩き飛ばす。電子を失った水分子は、ラジカルという危険な分子に変わる。俗にいう活性酸素である。電子を失った水分子は、失った電子を取り戻すべく、他の分子から電子を奪う。分子は分子でも、特にDNAから電子を奪われると大変なことになる。DNAは体を作るために必要な設計図が収められているのでDNAが傷つくと、細胞全体が異常をきたす)

時を同じくしてアインシュタイン博士は、炉からの出てくる光に関するグラフの形ではなく、その元となる炉の中にある原子、分子が光を出す過程の理論的な研究を始めた。(…ようやくレーザーの話に近づける)ここで、理論的な整合性を取るためには、「自然放出」と「誘導放出」という二種類の光の出し方が必要であるということを導いた。もう忘れてしまっている方がいらっしゃるかもしれないが、誘導放出は英語でStimulated Emission of Radiationである。これは、レーザーの「ser」の部分である。ただ残念なことに、laserの「ser」の話をするためには先に「電子軌道」の話をしなければならない。

物質を分割すると分子になる。分子は原子からなる。今は、当たり前であるが、ひと昔は当たり前のことではなかった。原子の存在が認められたのは、十九世紀後半、二十世紀前半のことである。原子の存在が認められると、次に気になるのは、原子の構造。色々な原子のモデルが提案されたが、その中で一番有名なのは「ラザフォードの原子模型」である。原子には、中心に小さなプラスの電気を帯びた原子核があって、その周りをマイナスの電気を帯びた電子が回っているというモデルである。ラザフォードの原子模型という具合には紹介されないが、この原子模型は中学生くらいで習う。また、世間一般が抱いている原子の構造のイメージはラザフォードの原子模型である。ラザフォードの原子模型では、原子核の周りをぐるぐる回っている電子の軌道が電子軌道ということになる。

しかし、この原子模型は、中学校で広く教えられるくせして、正しくない。この模型が正しいとすると、今までの物理学と整合性が取れない。今までの物理学によれば、そういう原子は一瞬で崩壊してしまう。先ほどした電磁場の話は覚えておられるだろうか。電磁波は、電場が変動して、それによって磁場が変動して、それによって電場が変動して、…、電場と磁場の変動が波のように伝わっている現象である。そしてマイナスの電気を帯びた電子が原子核の周りを等速円運動(等速と言いつつ、円運動は加速度運動)すれば、今までの物理学から考えると電場が変動する。そして、電場が変動すると電磁波が発生する。電磁波が発生すると電子はエネルギーを少し失う、エネルギーを失うと少しだけ電子は原子に近づく。この過程が続けば、最終的に電子が原子核に追突してしまうのである。しかし現実では、電子は原子核に衝突しない。なんと、理論と現実世界の矛盾している。これが今まで完璧だと思われていたニュートンの力学、マックスウェルの電磁気学の破綻の例の一つである。

完璧だと思われていた物理学の破綻、この問題を解決するために原子模型にも新たに「量子化」という概念が生まれた。

「光は、波でもあり、粒でもある」これはアインシュタイン博士の光量子仮説である。一方、「すべての物質は、粒でもあり、波でもある」という仮説を言い出した科学者がいる。ルイ・ド・ブロイ博士である。これはなんと、ド・ブロイ博士の博士論文の研究である。元々、光子だけの話をしていたそうだが、他の博士論文発表会でほかの教授から色々責められているうちに、苦し紛れに光子のみならずすべての粒子に波の性質があると言ってしまったらしい。(昔、講義で聞いた話なので間違っているかも)有名な「ド・ブロイの方程式」は、「特殊相対性理論」という理論で修正されたニュートン力学に出てくる式をいじったら導ける。

すべてのものは波である。そう、原子核の周りに回っている電子も、と考えてラザフォードの原子模型に量子論の概念を加えたのは、ニールス・ボーア博士である。波は、山と谷がある、山と谷が重ならなければ、波特有の性質である干渉が起きて、波は消滅してしまう。これが原子模型の問題を考えるミソである。電子の波が原子核の周りをぐるっと一周する、そして二周目、三周目とぐるぐる回る。もし、一周目、二周目、三周目と電子の波の山と波がずれていたらどうなるか。ぐるぐる回るにつれてどんどんと山と谷がすれていく。そして、少しずつずれた波が互いに干渉しあって全体として波が消滅してしまう。この波の消滅を回避するために、一周目の波と二周目の波の山と谷がぴったり揃うことが物理的に要求される。そう、波長の整数倍の軌道をぐるぐる回れば、山と谷が重なる、すなわち物理的な要求を満たすことができる。例えば、波長が2 cmならば、軌道の円周が2 cm, 4 cm, 6 cm, …、つまり2×1 cm, 2×2 cm, 2×3 cm, …といった具合。このときの2×〇 cmの〇のことを「量子数」と言ったりする。

この後、色々と話があるのだが、ここは少し飛ばして、この電子の波について考える。この波は、どんな式で表せるのだろうか。ここで登場するのが、エルヴィン・シュレーディンガー博士の「シュレーディンガー方程式」。「(非相対論的)量子力学」の基本方程式である。中学校で習った「エネルギー保存則」を覚えている方がいらっしゃるかもしれない。「力学的エネルギー」と「位置エネルギー」を足したらいつも一定になるという法則である。この法則と先ほどのド・ブロイの方程式と波を表す一般的な表記の三つを一緒にいじくればシュレーディンガー方程式が出てくる。波を表す一般的な表記は三角関数である。サイン、コサインのグラフを描いてみたらわかると思うが、グラフは波の形を表している。(サイン、コサインに「オイラーの公式」という裏技を使うとそいつらは複素数の指数関数になる。「オイラーの公式、すごい!」って話を部員にしたらあまり共感してもらえなかったが、オイラーの公式は、ものすごい公式。三角関数ではなく複素数の指数関数を使えば計算が楽になる。先ほど紹介した波動光学の波や、発電所から出てくる電流、電圧の波なんかも楽するためにこのような複素数の指数関数を使う)

数式を使わないと言ったが、シュレーディンガー方程式だけは紹介。シュレーディンガー方程式は、時間に依存する方程式であるが、色々といじっていたら、時間に依存しないシュレーディンガー方程式が得られる。原子核の周りをぐるぐる回る電子の波は安定的にぐるぐるしているので、時間変化しないと考える。

 \displaystyle \hat{H}ψ(\vec{r})=Eψ(\vec{r})

 \displaystyle ψ(\vec{r})のことを「波動関数」という。一方、 \displaystyle \hat{H}は、「エネルギー演算子」、もしくは「ハミルトニアン」という。エネルギー演算子と波動関数をくっつけると、エネルギー演算子がエネルギー \displaystyle Eに化ける。ちなみに、エネルギー演算子以外にもいろいろな演算子があって、いろいろな演算子と波動関数をくっとけると、そいつらは「物理量」に変化する。物理量とは、エネルギーとか、位置とか、運動量とかいう何かしらの測定機器で測定できる量のことである。(この方程式は、一般に「固有値問題」に分類される問題。固有値問題は、理系の学部一回生の「線形代数」という講義で嫌というほどやらされる)一方で波動関数は何かというと、電子の波と言いたいところであるが、特に意味はない。ただ、波動関数に波動関数をかけると、ある地点の電子の存在確率になる。(厳密には、波動関数に波動関数の複素共役)この考えは、「ボルンの確率解釈」と呼ばれる。これを含め、一連の量子力学に対する解釈のことを「コペンハーゲン解釈」という。

この話を聞いた多くの人は、「ん?」となっていることと思う。実は、皆さん以外にも「ん?」となっている偉人たちがいた。その偉人たちは、アインシュタイン博士とシュレーディンガー博士。粒子の位置は、確率でしか分からないというのは、今までの物理学の考えと真っ向から対立していた。今までの物理学では、例えば、投げられたボールの軌道は正確に予想することができる。しかし、コペンハーゲン解釈では、それが原理的にできないと言っているのである。これに対してアインシュタイン博士は、「神はサイコロを振らない」と量子力学を批判した。その批判に対し、ボーア博士は、「神が何をなさるかなど、注文をつけるべきではない」と応戦した。この二人の戦いは、長く激しく続いた。この戦いは、物理学史を代表する戦いである。この戦いを制したのは、現在ではボーア博士であると言われているが、まだこの問題に関しては完全に決着がついていない。一方、シュレーディンガー博士は、「シュレーディンガーの猫」という仮想の実験を提案して、量子力学を批判した。具体的には、「粒子はありとあらゆる状態(例:粒子がここにいる状態、あそこにいる状態)を重ね合わせた状態をとっていて、人に見られた瞬間に波動関数から導き出される確率に従って、ある一つの状態に収束する」というコペンハーゲン解釈への批判である。しかし、それもむなしく、現在ではこの解釈が広く受け入れられている。しかし、受け入れられているといっても、まだ状態の収束について詳しいメカニズムは分かっていない。また、一つの状態に収束するのであれば、他の状態は一体どうなったのかについてもよく分かっていない。量子力学の多世界解釈なんてのは、この話と関わっていたりする。(ただ、多世界解釈は、あんまり科学的にきちっとはしていない)もう一個加えると、波動関数には特に意味がないということに関しても、決着がついていない。そして波動関数に対応する物理現象を追い求めている人が今もいるらしい。まだコペンハーゲン解釈に「ん?」となっている方がいるかもしれないが、とりあえずこの解釈を受け入れて話を進める。

原子の周りをぐるぐる回っている電子が一体、どんな具合で原子のまわりにいるのか、つまり電子軌道は一体どんな感じかについては、先ほど紹介した時間非依存のシュレーディンガー方程式を解けば出てくる。といってもここでは、もちろん導出過程は示さない。結構めんどくさい計算をゴリゴリする。そしてシュレーディンガー方程式の解の導出、つまり波動関数、エネルギーの導出の際には、どうしても三つの整数を導入しないといけない。この三つの整数は、それぞれ「主量子数」、「方位量子数」、「磁気量子数」と呼ばれている。三番目は、さっき言った話と同じで、ぐるっと一周した波の山と谷が一周する前の波とぴったり重ならないといけないという条件からどうしても加えないといけない整数である。この整数を導入しないと波動関数が消滅してしまう。二番目は、説明しにくいのでパス。軌道角運動量の話。(本当は三番目も)一番目の整数は、むちゃくちゃ遠いところで波動関数が無限大の値を取ってしまうことを防ぐ。主量子数がいるおかげで「目の前にある原子のまわりを回っている電子が宇宙の遥か彼方に存在している確率は無限大」っていうわけわからん話にはならない。(さっき三つって言ったが、本当はもう一つ、「スピン量子数」っていうのがあったりする。(スピン量子数は、整数じゃなくて半整数)ただ、シュレーディンガー方程式は、電子のスピンについて何も教えてくれない。シュレーディンガー方程式が特殊相対性理論と融合すると、「ディラック方程式」という方程式にレベルアップする。ディラック方程式は、スピンについて、そして「反物質」について教えてくれる)電子軌道の導出が一番わかりやすい例であると思うが、量子力学では、数式をいじくっているうちにどうしてもとびとびの値(量子数)を導入しなければいけない局面にちょくちょく遭遇する。そして、この不連続性がとびとび力学である量子力学の特徴である。これに関連するのでついでに周期表の話をしておく。化学に出てくる元素の周期表(水素、ヘリウム、…)である。元素の周期表は、ヘンテコな形をしている。表であれば、びっちり隙間を詰めればいいのに上の方によく分からない隙間があったり、よく見ると表が二つにわかれていたりと。(下の方に目線をやると「ランタノイド」、「アクチノイド」と書かれた列が元の表と別個になって記されている)実は、このヘンテコな表の形とさっきの三つ(四つ)の整数(半整数)には対応関係がある。表がヘンテコな形なのは、四つの量子数のせいである。

横道に逸れてしまったが、そもそもは電子軌道の話をしていた。この話をしないとレーザーの話ができないので。先ほども言ったように、シュレーディンガー方程式から出てくる波動関数の二乗は、電子の存在確率を示していて、厳密には軌道ではない。しかし、昔からの慣例で、原子の周りに浮かんでいる電子の存在確率の雲のことを電子軌道という。しかし英語では、「orbit」ではなく「orbital」と言われ、きちんと区別がされている。軌道の形は、丸、ボーリングのピン、花、ドーナッツと多種多様である。(原子(電子)軌道で画像検索すればきれいな可視化された波動関数の画像が見られる)

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さて、散々、波動関数、波動関数と言ってきたが、シュレーディンガー方程式からは波動関数のほかに電子軌道のエネルギーを求めることができる。軌道のエネルギーというと分かりにくいが、要するに電子がある軌道にいるとき、その電子が持っているエネルギーのことである。もちろんのことながら、軌道のエネルギーは、とびとび(量子化)である。それぞれのエネルギーのことを「エネルギー準位」という。そして、このエネルギー準位の構造を知ることは、レーザーはもちろん「半導体工学」なんかでもものすごく大事なことである。量子力学って、何かしらよく分からない日常生活から遠い存在と思っている方がいるかもしれないが、実はテレビ、パソコンなどといったとても身近な電子機器に量子力学が使われている。やっと、エネルギー準位の話までいったので、レーザーの「誘導放出」について書く。

あるエネルギー準位(電子軌道)にいる電子をエネルギーの高い準位に持ち上げるにはどうすればよいのか。実はこれは簡単で、持ち上げたい準位と今いる準位の差分のエネルギーを外から加えればよい。光電効果の話で言ったが、電磁波(光)のエネルギーと電磁波の振動数には関係がある。差分のエネルギーに対応するような振動数を持つ電磁波を電子に照射すると電子はエネルギーを貰ってエネルギーの高い準位に移る。(移る前の状態を「基底状態」、移った後の状態を「励起状態」という。励起状態は、英語で「excited state」。電子は、光照射とかでエネルギーを貰うとexcited(励起)する)ちなみにヒトの目にある「ロドプシン」というたんぱく質に電磁波が当たると、ロドプシン内の電子が励起して、エネルギーの高い準位に移り、それによってロドプシンの形が変わる。これによって、ヒトは電磁波(光)を感知する。もちろん、どんな電磁波にも反応するわけではなく、エネルギー準位間の幅に対応する電磁波が当たらなければいけない。エネルギー準位にちょうど対応する振動数(波長)を持つ電磁波のことを可視光線(赤色~紫色)という。

電磁波を吸って電子がエネルギーの高い準位に移ることを「誘導吸収」という。そして、エネルギーの高い状態にある電子は、最初にいた場所に戻ろうとする。今いる準位から最初にいた準位に戻るためには、その差分のエネルギーを処分しないといけない。電子は、このエネルギーを対応する振動数を持つ電磁波の放出という形で処分して最初の場所に戻る。(ちゃんと言うと、エネルギー準位をよくよく見てみると、電子軌道のみならず、熱振動に関するエネルギー準位もある。もちろん熱振動の準位もとびとび。この準位間を移動するときには電磁波を出さない。この準位を経由して、元の場所に戻ると、照射した電磁波より低い振動数の電磁波が出てくる)この電子がもとの場所に戻りたいがために、エネルギーを電磁波(光)の形で処分することを「自然放出」と言い、出てきた光のことを「蛍光」という。(厳密に言うと、自然放出には蛍光と燐光がある)そう、これが蛍光灯の原理である。蛍光灯の場合、光照射ではなく、電気を使って蛍光灯内の物質の電子にエネルギーを与える。エネルギーを貰って、別の電子軌道に移動(「遷移」)した電子が元の場所へ戻るときに処分したエネルギー(光)のおかげで夜も快適に過ごせる。

それに加えて、これが先ほど紹介した黒体輻射の原理である。といっても話はそう簡単に終わらない。そして終わらないからこそレーザーが誕生したのである。確かに自然放出は、黒体輻射の原理の一部であるが、すべてを説明できないということに気づいたのが、あのアインシュタイン博士。何度も出てくるアインシュタイン博士、実はレーザーの理論とも深く関係している。先ほど言っていた自然放出は、励起した電子が一刻も早く元の場所に戻りたいがゆえにエネルギーを電磁波(光)の形で処分することである。しかし実は、自然放出の他に電子は誘導放出という過程でも電磁波を放出する。先ほど、少し誘導放出の話を出した。誘導放出は、励起した電子に電磁波が当たることによって、電子が刺激されて、当たった光と同じ振動数の電磁波を出して、元の場所に戻ることである。ちなみに振動数だけではなく、波の山と谷も当たった光とぴったり一致する。(偏光も)誘導放出は、入れた電磁波と電子の動き(「電気双極子」)が「共振」することによって起こる。と言われるとなんのこっちゃだと思うが、要するに、ブランコである。ブランコに乗って適当に足を曲げ伸ばししても、大きく振れない。適切にリズムを取って足を曲げ伸ばしすると、ブランコは大きく振れる。そして、ブランコの振れるリズムと足の曲げ伸ばしのリズムは一致する。これが共振である。適切な周波数の電磁波(適切な足の曲げ伸ばし)を電子に加えると、リズムの揃った電磁波(ブランコの振れ)が出てくる。そして、出てきた電磁波がほかの励起した電子に当たって、そこからまた、リズムの揃った電磁波が出て、それがまたほかの励起した電子に当たって、…これがlaserの「la」の部分、つまりLight Amplification、光増幅である。レーザーは、両端を鏡で囲う。これにより誘導放出された光が鏡で反射され、行ったり来たりしながら、他の誘導放出を促す。さっき、「ser」の話が済んだので、これでlaserになった。と言っても話はこれで終わらない。実は、励起されたほとんどの電子は、一刻も早く最初にいた場所に戻りたいので、光が照射される前に自然放出という形で光を出して、元の場所に戻ってしまう。この光は、誘導放出と違ってリズムがバラバラなので、「la」、つまり光増幅に使えない。

考えられる解決策は、励起した電子の数を増やすことである。スイッチを入れず、ほったらかしにしているレーザーに含まれる励起した電子の数は、「マックスウェル・ボルツマン分布」に従う。この分布は、「統計力学」という学問の根本となるエネルギー分布である。折角なので、この分布のミソを紹介する。簡単な例として3人の子ども(A君、B君、C君)で飴玉5個をランダムに取り合うという状況を考える。一人が飴玉5個を横取りする場合は、3通り(A君が横取り、B君が横取り、C君が横取り)である。一方で、一人が4個、もう一人が1個、残りの子が飴玉を貰えない場合は、6通りである。このように飴玉を完全にランダムに分けると後者の方が確率的に起こりやすい。子供を電子、飴玉をエネルギーに変えると、一つの電子がエネルギーをすべて横取りするよりも、他の電子でエネルギーをシェアする確率の方が起こりやすいということがわかる。ここで出てきた場合の数をちょろっといじくると「エントロピー」という物理量になる。この言葉を聞いたことがある人は多いのではないだろうか。レーザーにある電子(子供)がエネルギー(飴玉)をランダムに取り合う場合、場合の数が大きい、つまりエントロピーが大きくなる分け方が自然界では起こりやすいという仮定の下、導出されるのがマックスウェル・ボルツマン分布である。この分布は、エントロピーという「目的関数」の最大化問題である。(最大・最小化問題は、皆さんやったことがあると思う。「放物線(二次関数)が最大・最小値を取るときのxを求めよ」というのは、たぶん中学校くらいで出てくる問題。実は、最大・最小化問題は、最近流行っている。「ディープラーニング」とかいう名前で。ディープラーニングは、二次関数じゃなくて、誤差関数が最小値(極小値)を取るときのx ⃗を求めよ、という問題。ディープラーニングって難しそうと思うかもしれないが、やっていることは皆さんがやったことのある二次関数の最小値を求める問題と似たようなもん。と言っても、変数の数はxの一個だけではなくて、数十億個にもなるし、誤差関数も書き表せないほど複雑。二次関数みたいに式変形では解けないので、誤差関数という山の傾きを(偏)微分して調べては、山を下り、下っては、偏微分によって山の傾きを調べ、…、谷(最小値・極小値)を目指すってことをやっている。ちなみに一度にどのくらい山を下るかを決める値を「学習率」という)マックスウェル・ボルツマン分布によると、励起した電子の数は、励起していない電子の数よりも少ないということがわかる。それならば、エネルギーを注入して、励起した電子の数を増やしたらいいのでは、という話になるが、ここで一つ問題が発生する。どんだけ頑張っても(一つ上のエネルギー準位に)励起した電子の数が励起していない電子の数を上回るということは通常ありえないのだ。このことはアインシュタイン博士の放射の理論の式とプランクの公式の二つの式をにらめっこすれば分かる。(「アインシュタインの関係式」)しかし、諦めるのはまだ早い。これにはちゃんと解決策がある。(逆に解決策がなければ、レーザーはこの世に存在していないのだが)エネルギーをもっと加えて(光の周波数を変えて)電子を一個上(準位a)ではなく、さらに上のエネルギー準位(準位b)に励起すればいいのである。この際に、電子が前よりももっと元の場所に帰りたいと思うような準位を選ぶのがコツである。遠く(準位b)へ連れ去られた電子は、元の場所に帰りたくて、電磁波を放出して、下の準位(準位a)に落ちる。準位aに落ちた電子も元の場所に戻りたいので、すぐエネルギーを放出して、元の場所に戻る。けれども準位aにいる電子よりも準位bにいる電子の方が故郷への思いが強い。準位bから準位aに落ちてくる電子の数の方が準位aから元の場所に落ちていく電子よりも多い。結果として準位aで電子の渋滞が起こる。準位aの電子の数が多くなって、元にいた場所の電子の数を上回る。つまり、励起した電子の数の方が多くなる。この状態を「反転分布」と呼ぶ。またこの状態を「負温度」と言ったりする。(物理でよく使うのは、摂氏温度℃ではなく、絶対温度Kである。0Kは、-273.15℃のことであり、これを「絶対零度」と呼ぶ。絶対零度、すなわち0Kよりも低い温度は現実には存在しないが、マックスウェル・ボルツマン分布に負の絶対温度を入れると、反転分布を表すことができる)まとめると、三つ以上のエネルギー準位間の電子の遷移を制御すれば、励起した電子の数が増えて、めでたくレーザーができるということである。(ちなみに電子のエネルギー分布は、マックスウェル・ボルツマン分布に従うと言ったが、それは原子間の電子軌道が独立している場合。電子は「フェルミ粒子」と呼ばれ、本来「フェルミ・ディラック分布」に従う。半導体なんかは、この分布で話をしなければならない。ちなみのちなみに光、つまり光子は「ボース粒子」と呼ばれ「ボース・アインシュタイン分布」というこれまた別の分布に従う。こういう話は、「量子統計力学」という学問領域ででてくる。学部四年のとき、物理系の学生に交じって量子統計力学の講義を取っていたが、いい成績取れなかったので、ちょっとトラウマ)これでやっとレーザーの原理の話が終わった。ついでに言うと、「自由電子レーザー」と呼ばれる今まで説明したレーザーと全く別の原理で動作するレーザーなんかもあったりする。世界でとても有名な自由電子レーザーは、兵庫県にある「SACLA」。「SPring-8」の隣にある。

長々と説明したところが大体、量子光学の始まりの部分。ちゃんと電子と光(光子)の相互作用の話をするためには、「ゲージ理論」をしなければいけないけど、特にここでは深く入るつもりはない。ただ、ゲージ理論は相対性理論と並んで大事なので少し紹介。相対性理論の話をすると、「時間と空間がどうたら~」、「重力がどうたら~」という話になるが、実はあんまりそれは大事じゃない。例えば、親子がキャッチポールをしている場合を考える。キャッチボールを横から座って眺めてボールの動きを観測すれば、それを元に物理法則を作ることができる。また、自転車に乗りながらボールの動きを観測すれば、同様にそれを元に物理法則を作ることができる。相対性理論で大事なのは、座っている人が作った物理法則と自転車に乗りながら作った物理法則が一緒の形で表せることである。これを「相対性原理」という。言ってしまえば、当たり前の原理である。子供がボールをキャッチし損ねた現実は、座っている人が見ようと、自転車に乗っている人が見ようとボールをキャッチし損ねた現実なのである。アインシュタイン博士は、電磁気学でこの当たり前の原理が成り立っていないことに気づき、時間と空間は、不変の物差しではないということに行き着いた。一方、ゲージ理論は、これはかなり暴力的なたとえ、つまり正しくない例えであるが、子供側からボールの動きを見て作った物理法則と親側からボールを観測して作った物理法則は、一緒の形をしていなければいけないという考え方である。(きちんというと、時空間の任意の点を表す波動関数の位相を変化させても自然法則は不変でなければならない)これを「ゲージ原理」という。このゲージ原理を守るためにどうしても物理法則に「ゲージ場」に関する項を加えないといけない。この項は「力」を表す。ゲージ原理を守るためにこの宇宙には、力というものが存在しているというのがゲージ理論の教えである。ちなみに電磁場は、ゲージ場、光子は「ゲージ粒子」の一種である。この宇宙のすべての力は「四つの力」に分類されていて、光子は、宇宙を構成する四つの力の中の「電磁相互作用」を伝える粒子である。(ちなみにゲージ原理によって光子は、質量を持つことを禁止されている。光子が質量を持つこと許してしまったら、その物理法則はゲージ原理を満たさない)電磁相互作用は、僕たちにもっとも馴染みのある力である。(押したら物が動く、原子・分子が存在する、そして化学反応が起こるのは、この力のおかげである)ちなみにゲージ理論で四つの力の内、「重力相互作用」以外を理解することができる。

量子光学はさらに進むと、電磁場が量子化される。(さっきまでの話はレーザーの話といえども、電子のエネルギー準位の遷移の話であって、光子の話ではない。光子は脇役であった。光は、波と粒の重ね合わせということで、量子力学的な描像が与えられたが、それっきり前には進んでいない。まじめに光子の話をするためには、電磁場の量子化が必要)電磁場は、測れる量、つまり物理量である。量子力学では、物理量は、演算子にするのであった。アイデアは簡単で、電磁波をバネ(「調和振動子」)と考える。そうすると電磁波は、生成演算子 \displaystyle \hat{a}^\dagger・消滅演算子 \displaystyle \hat{a}という名前が妙にカッコいい演算子を使って、演算子化できる。(「ヒルベルト空間」に住んでいるすごくすごく抽象化された光子の状態を表す一種のベクトル(「ディラックのケットベクトル \displaystyle |n\gt」)と生成・消滅演算子をくっつけると光子が生成・消滅する。ちなみに「ディラックのブラベクトル \displaystyle \lt n|」というやつもいる。ブラ \displaystyle |n\gtとケット \displaystyle \lt n|でブラケット \displaystyle \lt n|n\gt。完全に駄洒落である。折角なので波動関数をブラとケットで表してみると \displaystyle \lt x|ψ\gtとなる)この後、「(先ほど出てきた)波動関数も演算子化しちゃえ」ってことで演算子になってしまう。すべての事象を「場」の性質によって理解しようという試みである。その枠組みから考えると、粒子はエネルギーが局在化した場である。

ゲージ理論あたりから「場の量子論」という学問分野に入る。特に電子と光子に注目する学問分野のことを「量子電磁力学」と言う。場の量子論は、学部四年の頃から少しずつ勉強を始めたが(現在、停滞中)、理論に着いていくがやっとで、分かりやすく説明できるほど理解していない。一応、今のところ「場の量子論」が宇宙を記述するための最高の理論(数学がまだ十分に整備されていないらしいが)であると言われている。場の量子論は、量子力学と特殊相対性理論が融合して、成熟した理論であるが、残念なことに一般相対性理論との融合は果たせていない。今、みんなが一生懸命、量子力学と一般相対性理論を融合させて「量子重力理論」を構築しようとしている。よく耳にする「ひも理論」などは、量子重力理論になりえるかもしれない理論の候補である。量子重力理論の話題を出したが、これに関しては全く勉強したことがないのでここで手を引いてレーザーに戻る。

レーザーは、ルビーのような宝石、液体、気体、また半導体によって作られる。誘導放出に使われるこれら媒質のことを「利得媒質」と呼ぶ。レーザーの特徴は、出てくる光の振動数と位相、つまり波の山と谷が揃っているということである。また、電球から出た電磁波は、進んでいくにつれてどんどん広がっていき、エネルギーもそれに伴って、どんどん薄まっていく。一方、レーザーから出た電磁波は、ほとんど広がらない。遠くの場所にもエネルギーを効率よく届けることができる。

レーザーの用途は、色々ある。例えば、プレゼンで使うレーザーポインタなんかは、名前の通りレーザーを使っている。具体的には、「半導体レーザー」である。半導体レーザーは、雑な説明をすると発光ダイオードの両側を鏡で挟んだものである。レーザーは、データを読み取るためにも使われる。赤色のレーザーをディスクに当てて、跳ね返ってくる光の跳ね返り方でデータを読み取る。これがDVDであり、赤色のレーザーじゃなくて、青色のレーザーを使えば、それはDVDではなくブルーレイ(青い光線)である。ちなみにここでも使われているのは、半導体レーザーである。青色発光ダイオード(ノーベル賞受賞)が発明されたおかげで、ブルーレイが生まれた。光の波長が小さくなるにつれて、レーザー光はより細かく集光することができる。(赤色より青色の方が波長が小さい)ブルーレイディスクはDVDに比べてより細かく情報を記録しているが、赤色より小さなスポットを作れる青色のレーザーを使えば、きちんとその情報を読み取ることができる。一方で、情報を読み取るだけではなく、送ることもできて、光ファイバーは、まさしくレーザーの応用例である。さて、レーザーは、いわば純度の高い光である。そのため、科学の世界では、モノを測定するときにレーザーを使う。僕の専門(生物工学)に近い話をすると、先ほど紹介したX線自由電子レーザーSACLAを使えば、タンパク質の立体構造を調べることができる。(「X線結晶構造解析」)タンパク質の立体構造の情報は、特に創薬なんかにかなり役に立つ。また、エネルギーを一点に集めることができるので、次世代の原子力発電と言われている「核融合炉」で核融合を起こすエネルギーを供給するために使われたりする。ご存知の通り、核融合炉の原理は、太陽がエネルギーを生み出している原理と同じである。そして最近(?)で言うと、「量子コンピューター」。このコンピューターは、レーザーから出る量子状態を維持した光子を使って計算する。他にもレーザーを使ったものは、沢山あるがここでは割愛。

 

生物の話。

これでやっとレーザーの話が終わった。といってもそもそも僕がしたいのは、目からレーザービームの話であって、レーザーの話ではない。ここから、目からレーザービームに話を繋げるために一つ論文を紹介する。ちょっと古い論文であるが、今回、論文調査した中では一番、「目からレーザービーム感」のある論文である。紹介するのは、2011年の「Nature photonics」に載った「Single-cell biological lasers」というレター論文。

www.nature.com

一言で言うなら利得媒質に細胞を使ったら上手いことレーザーになったという研究。材料になっている細胞は、ヒトの胎児の腎細胞由来の細胞とマウスの胎児皮膚由来の細胞。マウスの細胞でも実験したのは、単にどんな細胞を使ってもレーザー発振できますよっていうのを示したかっただけのよう。ちなみに実験に使った細胞には、「環状プラスミドDNA」の導入によってとある遺伝子が導入されている。「プラスミドDNA」とは、「ゲノムDNA」と対比して使われる言葉。ゲノムとは、生物の設計図の総称。プラスミドは、そうではないDNA。ゲノムDNAは、細胞内に絶対に存在していなければならないが、プラスミドDNAはあってもなくても、どっちでもいいDNA。そしてプラスミドは、「遺伝子の水平伝播」に一役買っている。これは時に人類にとって厄介な問題となる。例えば、ある細菌がとあるプラスミドを持っていたとする。そのプラスミドが持っているのは、ある抗生物質を無効化するタンパク質の遺伝子(設計図)である。その細菌は、そのプラスミドをコピーして、仲間の細菌に配る。そして、プラスミドを受け取った細菌は、抗生物質耐性菌に変化する。他から他へ遺伝子が伝わるので水平伝播、ちなみに親から子へ遺伝子が伝わることを水平伝播と対比させて、「遺伝子の垂直伝播」と言ったりする。人類にとって厄介なプラスミドであるが、実は「遺伝子工学」では好きな生物種に好きな遺伝子を導入するために使われている。(そして僕も実験でよく使う)

この研究では、「陽イオン性の脂質」を使って環状プラスミドDNAを細胞に導入している。細胞の膜は、「リン脂質」でできている。リン酸が外側に突き出しているのだが、このリン酸はその名の通り酸なのでマイナスの電気を帯びている。一方、DNAは糖とリン酸の鎖である。DNAは「核酸」と呼ばれ、こちらもその名の通り酸なのでマイナスの電気を帯びている。そのままであれば、プラスミドDNAは細胞に近づけない。これを回避するために陽イオン、つまりプラスの電気を帯びている脂質を使う。DNAと陽イオン性の脂質は、プラスとマイナスで引き合い、複合体を形成する。そして、脂質が多量であれば、その複合体もプラスの電気を持っているので細胞膜と相互作用して、プラスミドDNAを導入できるというわけである。遺伝子導入法は、色々ある。ネットで検索すれば、沢山出てくるので興味のある方はぜひ検索を。ここまで散々、動物細胞の話をしたが、残念ながら僕は、動物細胞に遺伝子導入をした経験がない。僕が遺伝子導入したことがあるのは、微生物と植物くらい。動物細胞の場合、陽イオン性の脂質の他にウイルスを使った遺伝子組み換えが有名。前者の遺伝子導入は、一過性。しばらくするとその遺伝子は、細胞内からなくなる。(今回紹介する論文でなされた遺伝子導入も一過性である)一方、後者の方法は、遺伝子がいつまでも残る。ウイルスは、自身の遺伝情報を感染細胞のゲノムDNAに無理やり組み込む。後者の遺伝子導入は、この性質を利用するのである。

ちなみに最近流行り(?)の「ゲノム編集」は、遺伝子組み換えがさらに発展したバージョン。ウイルスを使うと遺伝子を細胞のゲノムDNAに組み込めるが、組み込まれる場所はランダム。これに対してゲノム編集は、狙った場所に遺伝子を組み込んだり、狙った場所の遺伝子を破壊したりことができる。ゲノムの好きな場所を好きなように書き換えることができる、まさにゲノム編集である。ゲノム編集で有名な技術は、「CRISPR-Cas9」。元々は、微生物がウイルスに対して持っている免疫機構である。微生物は、昔戦ったウイルスのゲノム(DNA)情報の一部を保存している。再び、ウイルスと戦うことになれば、微生物はその情報(DNA配列)を取り出してきて、同じ情報を持つウイルスのDNAを見つけ次第、切り刻む。これをゲノム編集に応用するのである。この微生物が保存している情報をこそっと遺伝子組み換えしたい場所のDNA配列に置き換えておくのである。そうすると、Casタンパク質がその場所を切り刻んでくれる。細胞には、元々DNAの修復機構が備わっており、切り刻まれたDNAは修復される。近くに一部同じ配列のDNAがあるとその配列を元にDNAが修復される。(「相同組み換え」)この一部同じ配列のDNAというのがミソであり、このDNAに導入したい遺伝子を入れておけばいいのである。僕らの界隈では、「そろそろゲノム編集がノーベル賞を取らないのか」っていう言葉を時々聞く。(「遺伝子組み換え」の話が出たので、遺伝子組み換え実験の話を。遺伝子組み換えは、結構規制が厳しく、認可された実験室でしか実験できない。違反したら懲役とか罰金とかがある。認可された実験室には、「バイオハザードマーク ☣」が貼ってある)

横道に逸れたので元に戻すと、この研究では、一過性の遺伝子導入法によって遺伝子をヒトの細胞株に導入したのであった。そして、導入された遺伝子は、「緑色蛍光タンパク質」(GFP)の情報を保持している。GFPは、下村脩先生のノーベル賞でとても有名。緑色の蛍光を発するタンパク質である。蛍光については、先ほど話した通り。GFP内の電子は、青色の光によって励起され、緑色の光を放って元の場所(基底準位)に戻る。実験室では、青色の光を当てて励起させるが、オワンクラゲの中では、「イクオリン」というたんぱく質が励起するために必要なエネルギーをGFPに与える。イクオリンは、分子の構造変化によって青色の光を本来出すのだが、今回の場合は「蛍光共鳴エネルギー移動」というごつい名前の方法を使って、光を出さずにエネルギーだけGFPに与える。ちなみに蛍光共鳴エネルギー移動は、二つの分子間の距離に依存している。遠くなる程、エネルギーは伝わりにくい。この性質を使うと、細胞内のある二つ分子が近くにいるのか遠くにいるのか、調べることができる。

GFPを発現している細胞を顕微鏡で見ると綺麗である。しかし、もちろんそれが理由でノーベル賞を受賞したわけではない。GFPのおかげで「分子細胞生物学」、「生理学」、「医学」といった分野がかなり発展した。細胞は、無色透明である。無色透明の細胞を観察するためには、細胞に色をつける必要がある。中学校ぐらいで酢酸カーミンを使ってDNAを染色して細胞内のDNAを観察したことを覚えているかもしれない。(ちなみに酢酸カーミンでDNAの染色を行うのは中学校の実験ぐらいで、一般的な実験にこの試薬は用いない)そしてDNA以外にもタンパク質を染色できる試薬がある。しかしながら、今までの染色試薬には二つほど問題点がある。一つ目は、染色することによって、タンパク質の活動が阻害され、最悪の場合、細胞が死に至る可能性がある。生きている細胞の中にいるありのままのタンパク質を観察するのは困難であった。二つ目は、タンパク質を染色することはできても、ある特定のタンパク質だけを染色するのは難しいということである。タンパク質は、「アミノ酸」という分子がひも状に繋がった分子である。要は、それぞれのタンパク質の違いと言えば、構成するアミノ酸がどのように並んでいるかという違いのみである。(少し言い過ぎかもしれないが)染色試薬は、特定のアミノ酸やアミノ酸の結合などを認識して染色するが、すべてのタンパク質は、染色試薬が反応する特性をおおよそ持っているため、タンパク質間で染め分けるのは困難であった。ここで登場したのがGFP。GFPの遺伝子を見たいタンパク質に対応する遺伝子の上流部分に結合するだけである。遺伝子の上流とは、その名の通りタンパク質の設計情報が収められているDNA配列から見て上流部分という意味である。遺伝子の上流部分には、遺伝子を制御する制御領域がある。この制御領域と遺伝子領域の間にGFP遺伝子を挿入するわけである。GFP遺伝子と見たいタンパク質の遺伝子が融合したDNA配列から転写(RNA合成)、翻訳(タンパク質合成)が起こると、GFPと見たいタンパク質が融合したタンパク質ができる。この融合タンパク質は、本来の機能を保持しながら緑色の蛍光を放出する。これによって、見たいタンパク質が生きている細胞内でありのままの状態で働いている様子を観察することができるのである。ご存知の通り、2000年代初頭に「ヒトゲノム計画」が終了した。ヒトの設計図、ヒトゲノムのDNA配列を全部読むというプロジェクトである。無事にヒトゲノムの配列情報をすべて解読したのだが、実はそれで終わりではない。その先に待っているのはヒトゲノム情報の解釈である。一体、この部分の情報は何を意味しているのか、配列から手掛かりは得られるが、限界がある。情報の解釈の内、ヒトゲノム情報から作られるタンパク質がどのような機能を持っているのかを解明することも重要かつ、困難な研究課題である。この研究課題を大きく前進させたのがGFPである。GFPによって、あるタンパク質の細胞内での存在位置を特定することができる。この位置情報は、タンパク質の機能推定にとても大事な情報である。(ヒトゲノム計画の話をしたのでついでに言うと、2000年初頭は、ゲノムを読むために一億ドルぐらいかかっていたが、今は1000ドルぐらいで読める。「DNAシーケンス」(DNA配列を読むこと)技術の発展は、コンピューターのトランジスタの発展よりすごいかもしれない。革命的な出来事が三回ほど起こっている。最近、第四世代のDNAシーケンサーが研究の場で広く使われ始めている。第一世代~第四世代、そして第五世代(最終形態?)と言われている量子力学を応用した「量子DNAシーケンサー」(阪大の先生が先進的な研究をされている)の話もやろうと思えばできるが、ここでは割愛)

このGFPの遺伝子を載せたプラスミド環状DNAをヒトの細胞株に導入するとGFPが合成され、緑色の蛍光を発する。この細胞を鏡で挟んで、誘導放出によって放出された光を増幅しようというわけである。レーザーには、エネルギー準位が三つ以上必要という話を先ほどした。反転分布を実現するためである。そして、このバイオレーザーは準位を四つ持つ、(疑似)四準位レーザーである。疑似と付けたのは、エネルギー準位の構造がきれいに四準位を取っていないからである。四準位の間に色々とエネルギー準位が混じっている。

このGFP(正確には改良を加えたeGFP)発現ヒト細胞を鏡で挟んで、外部から励起光を当てると、細胞から緑色のレーザー光が出てくる。うまく細胞がレーザーになっているのである。そして、レーザーの利得媒質となった細胞は、死なずに生きている。この後、この論文は、細胞から出た緑色の光がレーザー光であることを証明する実験を行って、それについて議論している。ここでは、割愛。

最後に、レーザーの「横モード」についての話が記載されていたので少し紹介。利得媒質から誘導放出によって出てくる光は一種類ではない。特に今回の疑似四準位レーザーは、注目しているエネルギー準位の間にちょこちょこ準位があり、そこから電子が元いたエネルギーの低い場所に遷移する。それぞれの電子は違う場所から元の場所に戻るため、このバイオレーザーは、それに対応した様々なエネルギー、すなわち振動数をもった光を放出するのである。問題は、それが増幅されるか否か。波長の半分の長さを整数倍した長さと合わせ鏡の距離(光が通る距離)が一致しているときのみ、光は増幅される。(そうでないと電磁波の山と谷が徐々にずれて互いに干渉しあって、波が消滅する)そのため通常は、誘導放出によって出てくる光の種類よりも少ない種類の光しか増幅されない。さて、光の通る道は、鏡に垂直は経路だけではない。鏡で反射されて8の字を描くような経路もある。この経路は、先ほどの経路の長さとは違う。そのため、鏡に垂直な経路で増幅されなかった光であっても、8の字の経路を取ることによって増幅される可能性がある。それによってレーザーのスポットは特徴的な形を示す。これがレーザーの横モードである。この横モードは、利得媒質の性質、つまり細胞の性質によって大きく変わる。そのため、この論文では、この性質を使って細胞の状態を調べることができるのではないかと言っている。

レーザーは、利得媒質、反転分布を達成するために必要なエネルギーを注入する「ポンプ光」、ならびに利得媒質を挟む鏡が必要である。今研究では、この三つの内、利得媒質を細胞で代用している。後の二つ、ポンプ光、鏡は生物由来のものではない。ただ、GFPにエネルギーを与える方法はいくらでもある。別にポンプ光にこだわる必要はない。オワンクラゲの中では、さっき紹介したイクオリンというたんぱく質が化学反応によって、GFPにエネルギーを与えている。イオクリンは生物由来である。鏡は、…ちょっと難しいかもしれない。生物は、金属イオンという形で金属をよく利用するが、固体の金属はあんまり利用していない。この論文でもレーザーすべての部品が生物由来になることについて、「It might be possible…」という形で言及している。

これを踏まえて、GFPとイクオリンを改良し、その遺伝子をウイルスによって目の細胞に導入して、眼球の裏に鏡を取り付ければ、目からレーザービームが出るのではないかと思う。ただ、そのままでは、レーザーは出ない。目の中で誘導放出された光を反射する一種のコンタクトレンズが必要である。それを目に装着すれば、めでたく目からレーザービームが出るのである。(ただ、目には細胞膜がたくさんあるのでどうなることやら)

ここまで、話を引っ張っておいてこんな雑な結論に至ったことをお許し願いたい。和氣の原稿締め切りが迫っているのである。そして、こんな文章を書いているが、本当はジャーナルに投稿する論文の執筆と先輩に頼まれた実験をしなければならないのである。

「目からレーザービーム」は、僕が学部一回生の頃に部誌に何を書こうか悩んでいた時に同期の●●さんからもらった題目である。題目と共に、締めの言葉ももらった。「僕も目からレーザービームを出せるようになりたいです」、覚えていらっしゃる方はおられるだろうか。あれから四年、さすがに少しだけ成長したような気がするので別の言葉で締めようと思う。

今回、「目からレーザービーム」の話をしたが、色々と寄り道をして、かなり冗長な文章になってしまった。もちろん、文章を書くにつれって、あれも書きたい、これも書きたいと思っているうちに知らぬ間に文章が膨れ上がったという理由もある。これだけ文章が膨大になるのは予想外であったが、この文章を書き始めた時には、すでに少し冗長な文章を書こうと考えていた。そのため、この文章は冗長なのである。もっとちゃんと言うと、「引っ掛かり」の多い文章を書こうと思い立ったのである。レーザーの話をするのであれば、光とは何かという話になって、レーザーの原理に話を掘っていくと、量子力学の話になる。量子力学の話になったので、ついでに相対性理論や場の量子論などの素粒子物理学に繋がるような話をした。また、「レーザービーム」という話題に「目から」という条件が加わることで、生物学的な話、特に遺伝子工学の具体的なところに話が繋がる。あまり意味は分からないが、よく聞く身近な言葉(量子力学、相対性理論、遺伝子組み換え)や、話の中で関連する身近なもの(レーザーポインタ、DVD、GFP)をできるだけ多く取り入れた。身近ではないものをただただ列挙するよりも、身近なものを持ってきたほうが興味を持ってもらえると思えたので。また、和氣はもちろん外国語学部合氣道部の部誌なので、できるだけ文系の人にもわかってもらえるように用語の説明などはできるだけ簡単にしたつもりである。

先ほど言った通り、この文章は「引っ掛かり」の多い文章である。幅広い分野の入り口にあたるような事柄をこの文章に織り込んだ。この引っ掛かりに何かモノを掛けるのは皆さんである。何か、心に引っ掛かった話題があれば、僕の文章の「引っ掛かり」を手掛かりに、さらに知識を引っ掛けていただければ幸いである。また、プレゼンなどでレーザーポインタを使うとき、家でDVD、ブルーレイを見るときなどに、少しでもこれら身近なものの背後にある物理学を思い出して頂ければありがたい。結局、何が言いたいかというと、この「引っ掛かり」の多い文章を書いた理由は、科学の面白さを皆さんに伝えることであり、僕の文章で少しでも科学に興味を持っていただけたのなら、本当にこの文章を書いてよかったと思う。

 

追伸:

外国語学部の卒業論文は、二万字らしい。

この文章は、…二万七千字以上。

 

 

まあ、この文章には論文に必要な新規性はないので、卒論と直接比較はできないが。

 

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