論文版はてなブックマーク(その2)の話。

目次。

 

はじめに。

「論文版はてなブックマークとは何ぞや?」という話は、以前したので、以下の文章を参照のこと。

blog.sun-ek2.com

 

前回に引き続き、人工生態系(共培養系)を用いた実験的側面、シミュレーションを用いた理論的側面からの個体群動態の論文5本。

 

以下の文章は、備忘録のつもりで書いたので一般向けではないが、この記事は一般向けに書いたのでよければどうぞ。今、猛威を振るっている新型コロナウイルスの論文を使って、「研究者がどうやって未知のウイルスの設計図(ゲノム)を読み解くのか?」について説明した文章。

blog.sun-ek2.com

 

 

Community structure follows simple assembly rules in microbial microcosms

www.biorxiv.org

 

著者・掲載誌。

Jonathan Friedman, Logan M. Higgins, Jeff Gore

Nature Ecology & Evolution (2017年3月)

 

 

内容。

2種の共培養の結果をもとに、複雑な微生物系の群衆構造を予想するシンプルなルールを提唱している論文。もっと言うと、このルールは複数種を共培養して、それぞれの種が生存するか、絶滅するかを予測するもの。

 

ルールは2つ。いたってシンプル。

  • 微生物AとBを共培養したときに両者が共存しているのであれば、AとBを含む3者以上の共培養でも、AとBは生存する。
  • 微生物AとBを共培養したときにBが絶滅するのであれば、AとBを含む3者以上の共培養でも、Bは絶滅する。

 

このルールが本当なのか、実際に微生物を共培養することによって検証している。8種類の微生物から2種類選び共培養をする。これを全ての組み合わせ(28通り)で行い、それぞれのペアが共存するのか、一方が死滅するのか、データを集め、先ほどのルールに則って、3者の共培養の結果を予測する。その後、8種類の微生物から3種類選んで共培養した結果(56通り)と先ほどのルールから得られた予測を比較して、正確度を求めている。正確度(生存を予測できた種の割合)は、90%くらい。

 

その後、7種類の微生物を混ぜた共培養、8種類の微生物を混ぜた共培養を行い、生存する種を調べ、この結果とルールから得られた予測値を比較していた。結果は5割ぐらいの正確度しかないものがほとんどであったが、3者の共培養で得られた結果をもとに少し予測を修正すると、正確度は7割以上に上昇した。

 

具体的な修正方法は2つ。

  • AとBの共培養でBが絶滅しても、A、B、Cの共培養でBが生存したら、4者以上の培養でもBは生存する。
  • AとBの共培養で両者が共存しても、A、B、Cの共培養でBが絶滅したら、4者以上の培養でもBは絶滅する。

 

実験に加えて、Lotka-Volterraの競争方程式をベースにしたシミュレーションでも提唱したルールの検証を行っていた。パラメータをランダムに振って、種を複数作成し、実験と同様に2種の競争結果から得られる予測値と3種以上の競争結果を比較していた。

 

このルールは、AとBならBが強く、BとCならCが強く、CとAならAが強いといった構造になっている場合、適用が難しい。また、AとBだけならAは弱いが、D、Eと共同することによって、強くなったりするといった、より複雑な相互作用が含まれている場合、予測は難しくなる。

 

 

 

 

 

Mortality causes universal changes in microbial community composition

www.biorxiv.org

 

著者・掲載誌。

Clare I. Abreu, Jonathan Friedman, Vilhelm L. Andersen Woltz, Jeff Gore

Nature Communications(2019年5月)

 

 

内容。

集団の死亡率を変化させると、微生物系の集団構造が変化するという論文。実験では、微生物の継代時の希釈率を変えることによって、集団の死亡率を変化させている(死亡率=希釈率)。

 

希釈率を6通りに振って、3種の微生物を共培養すると、希釈率によって、系は異なる集団構造をとることがわかった。

 

増殖が遅いが他者への阻害作用が大きい微生物と増殖は速いが他者への阻害作用が小さい微生物の2種を考える。Lotka-Volterraの競争方程式の死亡率(希釈率)を阻害係数に取り込んで、新たな阻害係数として定義する。この新たな阻害指数は、死亡率の関数で、死亡率(希釈率)が高くなる程、この値は小さくなる。これが希釈率が低いと前者の微生物が集団を占めて、希釈率が高いと後者の微生物が集団を占める原因ではないかと考え、その実証を行っていた。

 

5種類の微生物から2種類選んで共培養。すべての組み合わせで共培養を行い、それぞれの種が培養後に系の何割を占めていたか平均を取る。この平均値を「Competitive score」と定義する。希釈率が低い場合、「Competitive score」と増殖率は、負の相関関係があるが、希釈率が高い場合、これらには正の相関関係が見られた。また希釈率を横軸(対数目盛)、「Competitive score」と増殖率を線形回帰したときの傾きを縦軸にプロットすると、綺麗な線形関係が見られた。

 

最後は、この結果と「Community structure follows simple assembly rules in microbial microcosms」という論文をもとに希釈率を変え、3種類の微生物を共培養したらどのような集団構造なるか予測し、実際に実験でも検証していた。

 

増殖率は低いが他の微生物の増殖を阻害する効果が高い微生物の存在が前提条件となっているが、実際の阻害効果は確認できなかった(増殖率が低い微生物を培養した後、細胞だけ取り除いた培養液で、他の微生物を培養したが阻害効果は見られなかった)。

 

培養液内の細胞濃度が上がれば、全体的に細胞の増殖率は落ちる。増殖率が低い微生物は、他を阻害しているのではなく、細胞濃度の上昇によって生じる阻害効果の影響が少ないのかも。

 

 

 

 

Migration alters oscillatory dynamics and promotes survival in connected bacterial populations

www.biorxiv.org

 

著者・掲載誌。

Shreyas Gokhale, Arolyn Conwill, Tanvi Ranjan, Jeff Gore

Nature Communications(2018年12月)

 

 

内容。

中程度の回遊(個体の集団間移動)が生物集団のダイナミクスを変え、結果として種の絶滅を防ぐという論文。中程度っていうのがミソ。集団内の個体が全く回遊せず、他の集団と孤立していた場合、環境変動などの確率的な要因で、集団全体が絶滅してしまう可能性がある。一方で、回遊率があまりにも高いとそれぞれの集団がどんどん均一化されてしまう。集団間がヘテロに保たれていると、すべての集団内の個体数が一斉に減少するといった事象は起きにくいが、回遊率が高く、集団間が均一になってしまった場合、気候変動などの影響により、それぞれの集団内の個体数減少が同期的に起こり、種が絶滅する危険性がある。

 

中程度の回遊が種の絶滅を防ぐという仮説を実証するために2種類の微生物を共培養する。培地には、アンピシリンとクロラムフェニコールという2種類の抗生物質が添加されている。共培養する一方の微生物は、アンピシリンを分解する酵素の遺伝子、他方の微生物は、クロラムフェニコールを分解する酵素の遺伝子が導入されている。それぞれの微生物は、1種類の抗生物質しか分解できないが、2種が共存することで、培養液中に存在するすべての抗生物質を分解することができる。

 

バッチを2つ用意して、2種の微生物の共培養を行う。培養後、それぞれの培地の一部を他方に移す。これが「生物の回遊」に相当する。その後、培地を継代し、その後は共培養・回遊・継代をひたすら繰り返す。回遊率を調べるためにバッチの培地を他方のバッチに移す割合を振って実験を行っている。始めは、少量の抗生物質を加えた温和な条件から。

 

継代培養をすると、一方の微生物の濃度を他方の微生物の濃度で割った値は振動する。回遊率が低い場合、バッチ間の振動は同期していないが、回遊率が高い場合、バッチ間の振動は同期していた。回遊率が高いと種が絶滅しやすいといわれるのはこれが理由である(バッチ間、つまり集団間のダイナミクスが同期しているので、ある集団の個体数が減少したときに他の集団も同様のことが起きやすい)。また、中程度の回遊率領域では、条件間で振動の周期が異なっていたり、少し乱されたような振動の波形を示したりしている。

 

次に、厳しい環境条件下であっても、回遊率が中程度であれば、集団は長く存続することができるということを示していた。厳しい環境は、培地の抗生物質の量を上げることによって実現していた。この抗生物質が大量に入った厳しい条件で、回遊率を振って、2種類の微生物を共培養すると、回遊率を中程度に設定したバッチが一番長く微生物が生存する確率が高いということが分かった。

 

実験に加えて、数理モデルを組みシミュレーションを行い、理論的な側面からもアプローチしていた。ベースは、Logistic方程式。各抗生物質を分解する持ち込み酵素の濃度は、始状態の微生物濃度に比例するとしている。また、抗生物質の分解速度は、前日から継代によって持ち越された酵素でほぼ決まるという仮定をおいている。過去の実験で、前日に合成されたタンパク質が継代後も活性を持つということは確かめられている。アンピシリン分解酵素は、培地中に存在するため、アンピシリン分解は、Michaelis-Mentenの式に従う。一方で、クロラムフェニコール分解は細胞内で起こるので、クロラムフェニコールの減少速度は、速度定数、微生物濃度(∝微生物濃度)、クロラムフェニコール濃度を掛け合わせたものになっている。

 

このような数理モデルを構築して、先ほど行った実験をシミュレーション。実験と同様の結果が得られた。また、それぞれの回遊率で得られたシミュレーション結果に対し、最大Lyapunov指数を計算し、ダイナミクスのカオス性を調べていた。中程度の回遊率領域で、バッチ間で非同期的なカオスなダイナミクスが見られることが分かった。厳しい環境下で集団が長期生存するために一番よい回遊率は、カオスになる回遊率領域から少しだけ外れているが、この論文では、「中程度の回遊率によって、集団間のダイナミクスに非同期的なカオスが生じ、そのカオスが種の絶滅を防いでいるのでは?」と推察していた。

 

Discussionで進化について述べられていた。抗生物質が高濃度という厳しい、かつ高い回遊率という条件下で、たまに抗生物質耐性が上がるといった進化が見られた。けれども、この進化は、7日以内で全滅したパッチでは確認されなかった。そのため、進化に必要な強い選択圧と長い生存期間の両者は、トレードオフの関係になっている。選択圧を上げるために抗生物質の濃度を上げると、進化に必要な系の生存期間(世代数)が短くなる。生存時間を長くするためには、抗生物質の濃度(選択圧)を下げなければならない。また、進化に必要な、かつ回遊率の関数となっている高い有効集団サイズと長い生存期間もトレードオフの関係になっている。回遊率を上げると、集団間のつながりが強まり、有効集団サイズが上がる(複数の集団が実質的に一つの大きな集団であるように見なせる)。有効集団サイズが上がれば、遺伝的な多様性も上がって、進化にもよい影響を与える。しかし、回遊率を上げることによって、集団間のダイナミクスの同期が進み、種は絶滅しやすくなる(生存世代数が少なくなる)。一方で、回遊率を中程度まで落とすと、生存期間は長くなるが、集団間のつながりが弱められ、有効集団サイズが小さくなる。

 

 

 

 

Ecological suicide in microbes

www.biorxiv.org

 

著者・掲載誌。

Christoph Ratzke, Jonas Denk, Jeff Gore

Nature Ecology & Evolution(2020年4月)

 

 

内容。

Ecological suicide(生態学的な自殺)に関する論文。多分、ecological suicideは、一般的な用語ではない。生態学的な自殺とは、集団内の生物が代謝によって、自身に有害な副産物を生産し、それが環境に蓄積することによって、集団が一気に絶滅する現象のことを指している。

 

Paenibacillus sp.を培養すると、代謝反応によって生産される有機酸によって、培地のpHがどんどん酸性に傾いていき、唐突に培養液中の微生物が死滅していくのが見られた。しかし培養液に事前に緩衝液を加えておくと、pHの変化が抑えられ、微生物は死滅しなくなった。また緩衝液の濃度を変えて、継代培養を行うと、低緩衝液では微生物は死滅したままであるが、高緩衝液では毎継代ごとに環境収容力近くまで微生物は増殖する。そして、緩衝液の濃度を中間ぐらいにしておくと、微生物濃度は振動する。このような振動は、捕食者と被食者という2者のpopulation dynamicsでよく見られ、よく研究されてきた。今回の振動は、pH変化が一種の捕食者のようにふるまうことで見られる1者のpopulation dynamicsである。

 

その後、炭素源を減らしたり、本来ならば、微生物を殺す抗生物質、アルコール、塩を適切な量入れたりすると、逆にecological suicide(生態学的な自殺)が防げるということを示していた。低栄養、抗生物質、アルコール、塩などによって、微生物の増殖が阻害されるため、系全体の代謝反応速度が落ちる。それによって、pHを下げる有機酸の生産が抑えられ、微生物は増殖することができる。もちろん、抗生物質とかを入れすぎたら、微生物は死滅する。

 

最後にeological suicide(生態学的な自殺)が自然界に一般的にみられるものなのかを検証していた。土の中から119種類の微生物を取ってきて、その中から代謝によって、系のpHを変える作用を持つ21種類の微生物について調べている。21種類のうち、5種類の微生物がEcological suicide(生態学的な自殺)を起こし、4種類の微生物は、自殺まではいかないが、自身の代謝反応が周りの環境を悪い方向に変化させ、それによって増殖が阻害されていた。

 

Ecological suicide(生態学的な自殺)は、population overshoot(人口過多)と似ているが、実は違う。population overshoot(人口過多)の場合、個体数は減少するが、最終的に環境収容力に収束する。一方でecological suicide(生態学的な自殺)の場合、そもそも環境収容力が0に近づくので、個体数の減少は急に起こり、集団は絶滅してしまう。

 

Discussionで進化に関して触れられていた。「どうしてecological suicide(生態学的な自殺)は、進化の過程によって、自然界から取り除かれずに、現在も一般的にみられるのか?」- 細胞の増殖速度とecological suicide(生態学的な自殺)は、トレードオフの関係にある。増殖速度を上げることは、増殖率を落としてecological suicide(生態学的な自殺)を防ぐことよりもメリットが大きいので、ecological suicide(生態学的な自殺)は自然界から取り除かれず、現在でも一般的にみられるのではないかとこの論文では推察している。(…違うと思う)

 

 

 

 

Asymmetric migration decreases stability but increases resilience in a heterogeneous metacommunity

www.biorxiv.org

 

著者・掲載誌。

Anurag Limdi, Alfonso Pérez-Escudero, Aming Li, Jeff Gore

Nature Communications(2018年7月)

 

 

内容。

2種が混合した集団間の非対称な回遊によって、厳しい環境に対する系の安定性は低下するが、一時的な環境変動に対する頑強性は上昇するという論文。

 

使っているのは2種類の微生物。一方は、スクロースを分解できる微生物A。もう一方は、スクロースを分解できない微生物B。スクロース分解は、細胞膜と細胞壁の間で起こるらしく、分解された単糖の一部は、細胞壁を通過して、培地中に拡散する。そのため、微生物Bは、培地に単糖がなくても、微生物Aが分解した単糖のおこぼれを貰って増殖することができる。

 

微生物Aの細胞密度が高くなれば、系内に拡散している単糖の濃度が高くなるので、微生物Aは大量に増える(密度依存の選択)。一方で単糖が豊富な条件では、微生物Bがよく増えるが、微生物Aの存在割合が低く、単糖の濃度が低くなれば、微生物Aがより速く増える(頻度依存の負の選択)。その2つの影響によって、両者の初期状態における割合がどうであれ、培養を続ければ、一定の比率に収束する。また、細胞濃度が高くなるにしたがって、収束後の微生物Aの割合は低くなる。

 

微生物AとBを10個のバッチで継代培養する。培養後、継代時に9個のバッチからそれぞれ割合mの培養液を1個のバッチに移す。一方で、その1個のバッチから割合m/9の培養液をそれぞれ9個のバッチに移す。2種が混合した集団間の非対称な回遊であり、star networkと名付けられている。一切、他のバッチから培養液を移さず、継代するIsolated nodeも比較のため、行っている。Isolated nodeは、1個のバッチから9個のバッチに培養液を同じ割合だけ移す操作をそれぞれ10個のバッチについて行うfull connected networkと実質的には一緒である。full connected networkは、star networkと違い、対称性のある回遊かつ、各ノードが他のノードと密につながっているため、実質的には一つの大きな一集団であると見なせる。

 

継代を続けるとstar networkは、isolated nodeと比べて、培養液中の微生物Aの割合が大きくなった。9個のバッチは、流入よりも流出が多いため、細胞濃度が低くなり、頻度依存の負の選択によって、微生物Aが増える。一方で、9個のバッチから大量の流入がある1個のバッチは、細胞濃度が上がり、微生物Aにとって不利な条件にはなるが、9個のバッチから微生物Aが多い培養液が供給されているため、それでも微生物Aはisolated nodeに比べて多くなる。

 

次に系の厳しい環境条件におけるstar networkとisolated nodeの安定性について調べている。具体的には、継代時における希釈率をどんどんと上げていって、安定性を見ている。結果は、star networkは中程度の希釈倍率で系が崩壊するが、isolated nodeは高い希釈倍率で継代されるまで、安定的に系が存続していた。star networkの9個のバッチは、1個のバッチに割合mの培養液を毎回、移すため、細胞濃度が低くなりがちである。そのため、高希釈率といった厳しい環境に対する安定性は低下している。

 

一方で、一時的に希釈率を上げたり、塩を加えて増殖を阻害したりといった一過性の環境摂動に対しては、star networkの方が頑強であるということが分かった。star networkの1個のバッチは、9個のバッチから大量の培地が流入しているので、細胞濃度は高い。系に摂動を加えられ、9個のバッチの細胞数が激減したとしても、細胞濃度が高い1個のバッチからの流出によって9個のバッチの細胞濃度は回復する。

 

実験に加えて、数理モデルを構築し、シミュレーションも行っていた。star networkとisolated nodeの他にScale-free network (ノードが持つエッジ数とその出現頻度が冪乗則に従っている)、Small-world network(任意のノードの距離の平均がノードの対数に比例)についても調べていて、前者はstar networkと同じような後者はisolated nodeと同じような安定性と頑強性を示した。

 

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