目次。
- 目次。
- はじめに。
- Non-Markovian continuous-time quantum walks on lattices with dynamical noise
- Measure for the degree of non-Markovian behavior of quantum processes in open systems
- Continuous-time quantum walks on spatially correlated noisy lattice
- Quantum spatial search on graphs subject to dynamical noise
- Multi-walker discrete time quantum walks on arbitrary graphs, their properties, andtheir photonic implementation
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はじめに。
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ちょくちょく宣伝しているが、新型コロナウイルスの論文を使って、「研究者がどうやって未知のウイルスの正体を暴くのか?」について説明した文章を一般の人向けに書いたので興味のある方はどうぞ。
blog.sun-ek2.com
加えて、PCR検査の仕組みと、それに代わるかもしれないゲノム編集技術を応用した新しい検査方法に関する論文を一般向けに説明したので興味のある方はどうぞ。
blog.sun-ek2.com
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「論文版はてなブックマークとは何ぞや?」という話は、以前したので、以下の文章を参照のこと。
blog.sun-ek2.com
今回も前回に引き続き、量子の世界の酔っぱらいの話が5本。
前回の話はこちらから。
blog.sun-ek2.com
Non-Markovian continuous-time quantum walks on lattices with dynamical noise
著者・雑誌名。
Claudia Benedetti, Fabrizio Buscemi, Paolo Bordone, Matteo G. A. Paris
arXiv, October 2015
内容。
ノイズがある状態での1次元、1粒子の連続的な量子ランダムウォークの振る舞いを調べた論文。特に量子ランダムウォークのマルコフ性・非マルコフ性に着目して調べている。
モデルは、こんな感じ。
εは、j上でのエネルギー(詳しくは書かれていなかったが、多分一様分布?)、νは量子系と環境の結合定数。は、RTN(Random Telegraph Noise)。
RTNは、量子ランダムウォークでよく出てくるが、正しく意味を理解していなかった。この論文の(式8)でやっと意味が分かった。
は、+aと-aの2値を取り、に従って、プラスとマイナスが切り替わる。
次にマルコフ性の話。
マルコフ性がある時間発展とは、
としたとき
を満たす時間発展のこと。
非マルコフ性がある時間発展は、
トレース距離を
とすると、マルコフ性がある場合、密度行列のトレース距離は時間に対して単調減少関数となっているが、非マルコフ性の時間発展の場合、トレース距離は振動する。(詳しくは、この後に紹介する論文を参照のこと)
また、マルコフ性に加えて、この論文では、「ガウス分布から得られるShannonエントロピーを量子ランダムウォークの確率分布から得られるShannonエントロピーで引いた負のエントロピー」や「コヒーレンス度合」を使って、系を調べていた。
ちなみに負のエントロピーは、
コヒーレンス度合は、
始めに1次元格子の中央に静止している粒子の振る舞いを調べている。基本的には、前に読んだ論文と同じようなことが書かれてあるので、大部分は省略。
γが大きいと、負のエントロピーは時間とともに0に近づく。すなわち、時間とともに粒子の確率分布は、古典的なランダムウォークと一致する。一方で、γが小さいと負のエントロピーは、γが大きいときに比べて、時間変化が乏しい。すなわち、初期状態からあまり確率分布が変わらないことが分かる。(局在化)
ノイズ(RTN)のaが小さく、γが大きい条件でのコヒーレンスは、他の条件よりも大きくなる。また時間発展にともなって、となる。
次に初期状態がガウスの波束だった場合の時間発展について調べている。
基本的に前回と大体一緒。γが大きいと波束がきちんと伝搬する。しかし、aが大きいと波束が拡散してしまう。一方でγが小さいと波束は原点に局在化する。
最後に異なる初期状態から始めた量子ランダムウォークのノイズ(RTN)のγとマルコフ性の関係について、密度行列のトレース距離を使って調べている
γが小さいと(遅いノイズ)、異なる初期状態から時間発展させた密度行列のトレース距離は振動する。つまり、γが小さいという条件下の量子ランダムウォークの振る舞いは、非マルコフ的である。一方で、γが大きいと(速いノイズ)、トレース距離は、単調減少する。つまり、この条件下での時間発展は、マルコフ的であると言える。
互いに識別できる全く異なる状態から始めて、トレース距離が減少するということは、時間発展に従って、両者が識別できなくなっているということを表している。これは、量子系が持っている情報が環境中に拡散していると考えることができる。一方で、遅いノイズがあると、逆に環境から量子系に情報が逆流することがある。
(今まで、数式を真面目に書いていたけど、時間がかかりすぎるので以後、できるかぎり割愛する)
Measure for the degree of non-Markovian behavior of quantum processes in open systems
著者・雑誌名。
Heinz-Peter Breuer, Elsi-Mari Laine, Jyrki Piilo
arXiv, August 2009
内容。
先ほどの論文で、ある物理系の時間発展のマルコフ性を密度行列のトレース距離を用いて、定量していた。この論文は、まさに先ほどの論文で使われた手法を提案している論文。
(式1)のトレース距離は、0から1の間を取る距離で、2つの量子状態をどれだけ正しく判別できるかを定量的に表す指標にも用いられる。
トレースを保存する完全正写像で写像した2つの密度行列の距離を取ると、写像する前の密度行列の距離以下になる。トレースを保存する変換と言えば、ユニタリ変換。完全正写像は、正の要素を正の値に写像する変換で、あんまりピンとはきていないが、量子情報の本とか読めば、完全正写像の話を見かける。
論文では、Lindblad 方程式を一例に取り上げて、話を進めている。Lindblad 方程式は、密度行列の変化が現在の密度行列に依存しているという形を取っており、マルコフ性を持ったマスター方程式(確率分布の時間発展を記述する方程式)である。Lindblad 方程式(γ≧0)を解くと、解は、初期状態にトレースを保存する(完全)正写像(dynamic map)を作用させた形になる。Dynamic map(式8)を見ると一目瞭然だが、0からτ+tまでのdynamic mapは、0からtまでのdynamic map とtからτ+tまでのdynamic mapの積で表すことができる。
2つの量子状態があって、ともにマルコフ性を持つマスター方程式で記述されるとき、それらの密度行列のトレース距離は時間発展に従って、小さくなっていく。
この論文では、色々な初期状態を時間発展させ、各時間におけるトレース距離を微分したものを0より大きいときだけ積分して得られた値の最大値をdynamics mapの非マルコフ性を定量する指標として提案している。(式11)
その後、実際の量子系を用いて、ケーススタディを行っていた。
マルコフ性を持っているという仮定の下、物理現象のモデルを立てることが結構あるが、必ずしもその現象がマルコフ性を持っているとは限らない。今回の提案手法を使えば、正しいモデル選びの役に立つかも。
Continuous-time quantum walks on spatially correlated noisy lattice
著者・雑誌名。
Matteo A. C. Rossi, Claudia Benedetti, Massimo Borrelli, Sabrina Maniscalco, Matteo G. A. Paris
arXiv, October 2017
内容。
やっていることは、1つ目の論文とほぼ同じ。違いは、ノイズ(RTN)に空間的な相関を持たせるかどうか。N個のノードをM個のグループに分け、そのグループ内のノイズ(RTN)はシンクロしている。きちっとM個のグループを作るというよりも(式3)の二項分布を使って、確率的に作るっぽい。N個のノードの隙間にあるN-1のエッジからM-1個のエッジを選んで、M個のグループを作る。
ここで調べているのは、先ほどの非マルコフ性に加えて、ノイズによる量子状態の局在化のしやすさ(IPR、式6)。
最初は、1次元格子の中央に静止している粒子の量子ランダムウォークの振る舞いから。ノイズのγの値が低いほど(遅いノイズ)、非マルコフ的な時間発展になり、確率分布が局在化しやすいというのは、1本目の論文にも出てきた話。しかし、ノイズのシンクロ具合(シンクロしているグループ内のノード数)が大きくなるにつれて、γが大きい領域でも非マルコフ性が大きくなる(図2)。一方、ノイズのシンクロ具合が大きくなると、低いγでも局在化しにくくなる(図3)。ちなみに初期状態を変えても大体、同じような結果になったらしい。
ノイズの部分的な相関を上手く使えば、非マルコフ的ではあるが、局在化しにくいといったγをいじくるだけでは成しえなかった状態を作り出せる。
次に初期状態がガウス分布を取る波束だった場合の話。γとノイズのシンクロ具合をいじくると波束の運動量の期待値と局在化のしやすさがどのように変わるか調べている。
γが小さいと時間が経過するにつれて運動量の期待値は減少していくが、ノイズがシンクロしていればその減少具合は抑えられる。γが大きいと運動量の期待値の減少は少ない。また、γが小さいときと同様にγが大きい場合でもノイズのシンクロが運動量の期待値の減少を抑えてくれる。
ノイズが一切シンクロしていない場合、γの値が小さいほど波束は局在化しやすい。一方で、ノイズがシンクロすればするほど、逆にγの値が大きくなるにつれて、波束が局在化しやすくなる。
Quantum spatial search on graphs subject to dynamical noise
著者・雑誌名。
Marco Cattaneo, Matteo A. C. Rossi, Matteo G. A. Paris, and Sabrina Maniscalco
Physical Review A, November 2018
内容。
ノイズ(RTN)存在下での量子空間探索アルゴリズムの話。新しい点は、ノイズ存在下でも、ちゃんとアルゴリズムが機能するという点と、完全グラフ(全てのノードがエッジで直接つながっているグラフ)に加えて、星状(ある一つのノードに沢山のノードが接続されている)構造でも空間探索ができるという点。
(式2)で表されるハミルトニアンをマーキングされた量子状態を含む状態ケットに作用させ、後に測定すると、ほぼ100%の確率でマーキングされた状態が得られる。
完全グラフであれば、(式2)のoracleハミルトニアン部分を隣接行列で代用できるそうだが、完全グラフに加え、星状グラフから目的の状態を探し出すためには、各ノードのエッジ接続数を表す対角行列から隣接行列を引いたoracleハミルトニアンを使う必要がある。ちなみに所望の状態が星状グラフの中央部分にあっても周辺部分にあってもちゃんとアルゴリズムは機能する。
次にノイズ(RTN)がある状態を考慮に入れたハミルトニアンを(式12)で定義し、完全グラフでの空間探索の話を始めている。ノイズがある状態でアルゴリズムを作動させ、結果を測定すると目的の状態が得られる確率は下がってしまうが、最大確率が得られるまでに要する時間は短縮されていく。
最大確率とその確率が得られる時間を使えば、測定によって所望の状態が得られるまでの期待時間を算出することができる。ノイズによって、最大確率は下がるが、それが得られる時間は短くなる。この両者が相殺し合い、結果的に期待時間はノイズがあってもなくてもほとんど変わらないということが分かる。つまり、ノイズは、このアルゴリズムの計算時間に影響を及ぼさない。また、グラフのノードの数が増えるほど、ノイズの影響は受けにくくなる(ノード増加に伴って、最大確率が上がっていく)。
次に星状のグラフ構造の場合。こちらは、所望の状態がグラフの中央にあれば、ノイズの影響をあまり受けないが、グラフの周辺部にあれば、どうしてもノイズの影響を受けてしまい、計算時間(期待時間)がからに近づいていく。完全グラフの場合、全てのノードとエッジが繋がっているので、ノード数が増えるにしたがって、ノイズがいい感じに平均化されるが、星状構造の周辺部分のノードに繋がっているエッジ数は、全体のノード数が増えたとしても、相変わらず1本なので、この恩恵は受けられない。またノード数増加に伴い、探索空間が広がるので、最大確率はノード増加とともに下がる。星状構造の中央のノードの場合、上の2つの効果の綱引きの結果、全体のノード数が増えても最大確率はほぼ変わらない。
Multi-walker discrete time quantum walks on arbitrary graphs, their properties, andtheir photonic implementation
著者・雑誌名。
Peter P. Rohde, Andreas Schreiber, Martin Stefanak, Igor Jex, Christine Silberhorn
arXiv, January 2011
内容。
複数の粒子を使った任意のグラフ上での離散的な量子ランダムウォークに関する話と光学系を使った量子ランダムウォークの実装の話。光学系の論文を読んだことがなく、後半の前半までは何とかついていけたが、後半の後半部分がよく分からなかった。
まずは、(式2)で初期化の定義。に生成演算子のようなものを作用させて初期化する。「量子ランダムウォーカー生成演算子」とでも言ったところ?ここら辺は、光学屋さんっぽいなって思う。
ランダムウォークの定義は、(式3)。今までの量子ランダムウォークと違うのは、コイン投げの後の粒子の移動の部分。粒子は自身が保持しているコインの状態に応じて、現在地を更新するが、任意のグラフ構造での量子ランダムウォークの場合、コインの状態に対応する部分(隣接ノードの位置情報が収められている)と現在地に対応する部分を入れ替えることによって、移動する。前者の定義では、任意のグラフ上での移動の過程は非可逆である。後者の定義に変えることによって、移動の過程は可逆になる。
次に2粒子を使った量子ランダムウォークにおいて、粒子の見分けがつかないと、2粒子の同時確率分布は、単純な1粒子の確率分布の積にはならないという話をしている。(粒子の見分けがつく、つかないとは、粒子の入れ替えによって、波動関数が対称性を維持するか、維持しないかということ)こういう話は、前に読んだ論文でも調べられていたが、この論文では、ここで定式化したものを使って、粒子の見分けがつく場合(式11)とつかない場合(式9)で確率分布が違うということを示していた。
次に光学系を使った量子ランダムウォークの定式化の話。論文では、一次元格子上で2つのフォトンが量子ランダムウォークしている状態を取り扱っている。量子ランダムウォークは、(図3)に示されている通り、ビームスプリッターをツリー状に組み合わせることによって実現する。フォトンは、2つの状態を持ち、とここでは表されている。これは、ビームスプリッターに状態1を持つm個のフォトンと状態2を持つn個のフォトンが入力されているということを表している。入力と出力の遷移行列は(式12)にある通り。(異なる2状態は、偏光状態を変えることによって実装するんじゃないのかなって思っている)
先ほど、量子ランダムウォークに使われる粒子の見分けがつくか、つかないかによって、同時確率分布の形状が変わるといった話をしていたが、この光学系では、異なる状態を取っているフォトンを入力に使うか、否かで、フォトンの見分けがつくか、つかないかが変わり、理論で示されている同時確率分布の差異が見られるのではないかと述べている。(この論文の光学系を使った実装はあくまで提案であり、実際には行われていない)その後の話は、よく分からん。